ユースマニュアル

スタンレー・キングさんはイギリス出身でカナダで活躍している建築家です。厳密にはもう引退していらっしゃるのですが、生涯に渡って情熱を注いでいる市民参加型のワークショップ手法に今でも熱心に取り組んでおられ、とても引退した人とは思えないお忙しさです。

キングさんは最初は普通に高層ビルをデザインしたりしてたのですが、彼の関心はだんだん公共の意見を取り入れた開発計画に重点が移っていきました。教育者でもあるので、子供を対象としたワークショップの開発にも力を注いでいます。都市計画に関する知識のない人や子供も含めた共同体の中の一つ一つの魂すべてを尊重し、共有できる理想を描いていこうとする姿勢はすばらしいものだと思います。

以下、スタンレー・キングさんの最近の小論「ユースマニュアル」(イラストを除く)をご紹介します。続けて、今翻訳している書籍も掲載します。著作権はキングさんにありますが、広く知らしめたいというご希望により、日本語で紹介する許可を頂いております。私は建築や都市計画については門外漢なので、用語の間違いなど多々あることをあらかじめご了承ください。建築や教育関係その他でこの内容に興味を持ちそうな人をご存知でしたら、ぜひ一読を勧めていただきたく思います。

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ユース・マニュアル --- 若者のデザイン参加のための手引き
建築の社会的な在り方について(市民参加型の建築デザイン):
持続可能なコミュニティーのデザインにあたって若者たちの参加を図るために。

この小論は教師および年少の生徒たちを指導する年長の生徒たち(ユース・リーダー)のために作成されました。

著者:スタンレー・キング、スーザン・エン・チャン
草稿、2010年4月

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目的および目次

目的
このユース・マニュアルでは、若者たちが地域共同体の将来的な持続性を計画し、自分たちの周りの環境をデザインすることに貢献するための方法を学ぶことを可能にするためのプログラムをご紹介しています。本稿は、プログラムを実行するにあたっての補助として、教師および年長の生徒たちに活用していただくことを目的としています。

このプログラムは、公園や子供の遊び場、レクレーションのための場所、道路、公共の空間や建物など、様々な環境に適用できます。当マニュアルは相互に関係のある3つの章から成りますが、単独で利用することもできます。


目次

序章(3ページ)

第1章 「壁の街」(6ページ)
生徒たちは発展する街の様子をすばやく描き、それを作るのは「誰か」ではなく「自分たち」であることを理解します。自分の一日の生活のパターンと感覚に基づいて、彼らは自分たちの環境をデザインします。

生徒たちに次のような問いかけをします。「あなたの新しい環境の中では、何が見えますか?聞こえますか?肌に触れますか?匂いますか?午前6時、10時、正午、真夜中には、何をしていますか?」

それから、次のように促します。「まず自分の姿を描いてください。それから、お友達を描いて、それから周りの様子を描いてください。」

第2章 世代を越えて年長者(専門家)から学ぶ(原語はMentor) (29ページ)

(訳注:Mentorとは、何かの事柄について自分より先に進んでいる人であり、中でも特に師として仰ぐような人を指す。先輩、年長者、その道の専門家。)
地域の年長者(専門家)たちが生徒たちに持続可能な暮らしとデザインについて教えます。年齢層を超えたエクササイズでは、年長の生徒たちが年少の生徒たちに指導します。年長の生徒たちが「壁の街」エクササイズを指導し、その中で年少の子供たちが自分たちの持続可能な空間をデザインします。

ケース・スタディー:バンクーバー市のプリンス・オブ・ウェールズ・セカンダリー・スクール(訳注:日本の小学校の中ー高学年から中学生にあたる年齢層のための学校)

第3章 アイディア・フェア (54ページ)
保護者および市民の指導的な立場にある人々を対象とした、生徒たちによるデザインの発表会を開催するにあたって、年長の生徒たちが年少の子供たちを指導します。

ケース・スタディー:バンクーバー市のプリンス・オブ・ウェールズ・セカンダリー・スクール

著者について(61ページ)


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序章

若者たちが参加することの有効性
地域環境の将来を計画するときには、ほんの少しの時間を割いて若者たちの参加を促すことにより、良好な結果が得られます。自分の家という狭い世界から一歩を踏み出して、新しく地域環境を認識したばかりの若者たちは、対話に新鮮な視点をもたらしてくれます。彼らの活動的な生活はデザインにおける活動の幅を広げます。

車、人物、環境などに対する彼らの認識は、デザインに隠された危険の可能性に光を当てることができます。子供にとって安全な場所は私たちみんなにとっても安全です。

「子供にとって住みやすい街」

ユニセフは、1989年の「子供の権利会議」に基づいて、「子供にとって住みよい街」の性質を12か条にまとめました。ユース・マニュアルはそのうちの7つに対応しています。

子供たちが自分たちの街に関する意思決定に影響を与える権利
子供たちが自分たちの欲する街作りに関する意思表示をする権利
子供たちが家庭的、地域共同体的、および社会的な生活に参加する権利
子供たちが自分たちだけで安全に道を歩く権利
子供たちが友人に会って遊ぶ権利
子供たちが植物と動物のために緑の空間を持つ権利
子供たちが公害によって汚染されない環境に住む権利

http://www.childfriendlycities.org/

スタンレー・キングの「壁の街」エクササイズは、最初の三つの項目について子供たちが正式に参加することを可能にします。残る四つの項目は、200件以上の「壁の街」ワークショップで描かれた子供たちの絵に共通して見られるイメージです。

最初のワークショップは、1971年にノバスコシア州のポート・ホースクベリー市において、コミュニティー・スクールのデザインのために開かれました。(訳注:コミュニティー・スクールとは、公共図書館や公民館その他の公的な機能を併設した公立学校を指す)その後、幾つもの大きな都市計画プロジェクトにも活用されました。その中には、バンクーバー市のロブソン広場、グランビル・アイランド、フォールス・クリーク、ヘイスティングス公園(PNE)、ビクトリア市のジェームズ湾、カルガリー市のオリンピック・プラザとメモリアル・ドライブなどが含まれます。

アルバータ州およびブリティッシュ・コロンビア州各地で、多くの身近な公園や州立公園、国立公園、市内の居住区、小さな町などのデザインに若者たちが貢献しました。若者たちが計画に参加するときは、デザインは常にある特徴を示します。それは人間的な大きさであり、そして新しい場所で楽しむことのできる様々な活動の幅広さです。

若者が計画に参加することによって、彼らがおちついた振る舞いをすることや地域共同体の絆が強まることも期待できます。若者たちは自分たちがデザインの手助けをした環境を大事にします。公共器物の破損行為は皆無に近くなります。

「子供たちが自分たちの環境作りに参加したときは故意な破損はないということに、私は本当に心から同意します。」
(カルガリー市のジョン・ダイフェンベーカー高校の校長、モイラ・ヘガーティ氏からの手紙。)


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教育者からの反応
「私たちは毎回プログラムの締めくくりにバンクーバーへの見学旅行を行います。コリシアム、トロント・ドミニオン・タワー、ガスタウン、エンパイア・スタジアム、BC州大学、オークリッジその他いろいろな場所で、子供たちは「PEPリスト(個人的な経験と知覚)」をチェックします。一言で言って、このプログラムは私の授業で最もやりがいのあるものです。子供たちは心から喜んで行います。」
BC州ポート・アルバーニ市のアラン・ウィルモット氏からの手紙。(1973年2月8日)

「結果は驚愕すべきものでした。子供たちは、水を得た魚のようにこのプロジェクトに反応しました。彼らにほんの一言でも書いたり発言させたりするのは至難の業だったというのに、このプロジェクトの場合は子供たちが我先にアイディアやコメントなどを出してきました。
全く、信じられないほどでした。同じ子供たちとは思えないほどだったのです。他の3人の教師たちもこのプロジェクトを行ってみました。3年生から5年生の担当教師、4年生の担当教師、7年生の担当教師です。彼らも皆、それぞれの生徒たちから素晴らしい反応を得ました。」
バンクーバー市のローラ・セコード小学校のジョン・ヒバーソン氏からの手紙。(1973年3月19日)

コミュニケーション
「壁の街」エクササイズは、人間の集落の進化における歴史的な変化に関して子供たちに基本的な理解を与えます。日常的な一日の行動を観察することは、農家の暮らし、商店の経営者の暮らし、炭鉱の町の採掘労働者の暮らしなど、子供たちが様々な社会を学ぶ上で人間的な要素を思い描く助けとなります。

子供たちが自分たちの日常と祖父母が子供だった頃の日常とを比較することは、過去の暮らしを思い描いて歴史の中の人間的な要素を知る手助けとなります。

このプログラムはコミュニケーションの能力を高めます。絵を描くことと言葉を書くことを組み合わせることによって、子供たちは自分のアイディアを容易に、かつ自信を持って描写できるようになります。これは、カナダに来たばかりで英語に困難のある生徒にとっては特に有効です。

グループで課題に取り組むことを学ぶのも、(このプログラムを使うことで)もっと簡単になります。」バンクーバー教育委員会報告の中の教師評価より。「生徒たちが地域向上のためのデザインをする」(スタンレー・キング、1978)


エコロジー教育:「私の住むところ、私のすること」
スーザン・チャンは、「壁の街」エクササイズと「持続可能なデザイン・アイディア・フェア」を用いて、「教科書の中のエコロジー」を実際の暮らしと関連付けました。デザイン・エクササイズは、生徒たちに自分の周囲の様子と日常の暮らしをはっきりと認識させます。これは持続可能な暮らしをデザインするにあたって最初のステップとなります。

「生物のエコロジー的なニッチは、それがどこに住んでいるかということだけでなく、それが何をするかということにも左右される。(訳注:ニッチの定義「ある生物が生態系の中で占める位置。生態的地位。ニッチェ。 」大辞泉 より)分析すれば、生物学的には生息地とは生物の「住所」であり、ニッチとはその「職業」であると言えるだろう。」

「 エコロジーの基盤」(オダム著。WBソーンダーズ社、フィラデルフィア1959)(訳注:オダムはアメリカの生態学者)


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デザイナーからの反応
「プリンス・オブ・ウェールズ・セカンダリー・スクールでの科学祭に招待していただいてありがとうございました。素晴らしいイベントを拝見して大いに力づけられました。生徒たちは、持続性とは一体なんであるのか、そして地球を救うために何をなさねばならないのか、本当によく理解していました。貴殿が彼らに活力を与え、指導なさったからです。貴殿が教えておられる世代には希望があります。台風のときの水の管理、エネルギーを節約するための機器、マーケット・ガーデニングを理解することで、貴殿の教えと情熱は生徒たちに伝わっています。(訳注:マーケット・ガーデニングとは生産者が直接消費者やレストランなどに販売する小規模近郊農業を指し、栽培する種類の多さが特徴。)

貴殿が研究対象として選ばれたCKチョイ・ビルは、貴殿の生徒たちが生まれる前の1995年に完成されたものですが、間違いなく(持続可能な建物として)最高峰のものです。今朝、親しい友人から電話がありました。8年生の生徒の祖母から聞いた話だそうですが、その生徒は私が科学祭で「あなたがたの世代にはより良い人生への希望がある。地球を守ることを学んだからだ」と発言したことを祖母に伝えたのだそうです。想像してみてください。本当に素晴らしいイベントで、心から楽しませていただきました。」

プリンス・オブ・ウェールズ・セカンダリー・スクールで行われた「持続可能なデザイン・アイディア・フェア」の感想の手紙。コーネリア・ハーン・オバーランダーOC(訳注:カナダ勲章受賞者の肩書き)。(2009年4月3日)

「カナダ王立建築協会会員スタンレー・キング氏とスーザン・エン・チャン氏は、メトロバンクーバーカナダ王立建築協会支部で「建築の社会的な在り方」を講演し、好評を博しました。この支部の会員並びに議長であるスチュワート・ハワード は、両氏の努力を全面的に支援します。メトロ・バンクーバー支部は、特に中高生との教育的な関係において、このプロジェクトを全面的に支持します。キング氏とチャン氏は、建築および社会におけるその役割を推進する上で独自の貢献をしています。」

カナダ王立建築協会(RAIC)メトロ・バンクーバー支部からの手紙。(2009年9月3日)(スチュワート・ハワード、FRAIC(Fellow of the Royal Architectural Institute of Canada、カナダ王立建築協会賛助会員 )、MAIBC(BC州建築協会会員)(訳注:カナダはイギリス連邦の一部であり、儀礼的な国家元首はイギリス国王。)
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by ammolitering7 | 2013-01-22 10:16 | 「ユースマニュアル」


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