2009年4月ワークショップのレポート1

Co-Designワークショップ参加レポート

日時:2009年4月18日、土曜日。午前10時から午後5時。
場所:バンクーバー市内にある大学(UBC、University of British Columbia)、
美術学部に属するブチャナン・ビル群の中庭
参加費用:無料。お茶、昼食、ソフトドリンク、お茶菓子のサービスあり。

指導:Co-Design Group (コー・デザイン・グループ)
主催:UBC

1.ワークショップの要旨

先日、建築デザインに関するワークショップに友人3人と一緒に参加しました。これは、UBC美術学部に属するブチャナン・ビル群の2つの中庭を改装するに当たって、学生や教職員その他から広く意見を聞くために開かれたものです。

UBCは学生総数が5万人を超える非常の規模の大きな大学であり、敷地内には一般居住者向けの分譲マンションなどもあります。改装予定地のすぐそばにはコンサートなどが頻繁に開かれている大きなホールもあり、一般市民にも親しまれています。各国からの研究者やその家族なども多いので小さな町のような様相を呈しており、美術学部の中庭と言っても実際に利用するのは単に学部内の学生に止まらないことが予想されます。そのため、ワークショップは参加者の対象を学部関係者だけに制限せず、UBCへの入学を希望する高校生や都市計画に興味を持つ一般人など、誰にでも門戸を開いて募集されました。

改装の目的は、学生や教職員が様々に活用できる場となるようにすること、そしてコミュニティーの雰囲気をかもし出すような場所にすることです。ワークショップを指導したのは、Co-Design Groupという建築関係者の集まりです。これは民意を汲み上げる独特の活動で内外で高い評価を得ている組織です。


2-1.中庭と周辺の様子

UBCは広大なキャンパスを持ち、たくさんの建物が余裕を持って配置されています。道幅も広く、車道が縦横に張り巡らされているので、敷地内だけを往来するバスだけでも何本かあるほどです。一般人の私たちは、大きなバスターミナルで降りたあとは地図を片手に目的地を探しました。手入れの行き届いた美しい町並みを見ながら、10分弱歩いてブチャナン・ビル群にたどり着きました。細い道を挟んだ向こうには、美しい芝生の丘があり、見事な桜の木が満開でした。当日はとてもいい天気だったので、青空には白い雲、芝生の緑、薄桃色に広がる薄桃色の桜、と、絵に描いたような景色が広がりました。花の下では若者たちがたわむれ、乳母車を押してきてお喋りに興じるお母さんたちもいるし、寝そべって日光浴をしている人たちもいます。

改装予定地である中庭およびブチャナン・ビル群は、1958年から1960年にかけて建設されました。当時の写真を見ると、その頃の新しい建物に特徴的な無機質な美しさがあります。抽象的な現代彫刻も並び、落ち着いた雰囲気です。写真の中の人々の服装もきちんとしていて、すっきりと整った背景によく馴染んでいます。

ところが、それが現在はどうなっているかというと、すぐ外の明るい芝生の雰囲気とは打って変わって、ひどく寂れています。古い写真にあった上品な雰囲気も吹き飛んでしまっています。中庭なので日当たりが悪くなり勝ちであり、また、建物の影になってぱっと一目につかないので、ゴミ箱や建設用のコンテナなどが無遠慮に並んでいます。ゴミ箱は、高さ1.5メートル、横2メートルほどの大きなものが5つほど、リサイクル用を含む高さ1メートルほどの小さめのものが20個ほどあります。建築資材を入れるための高さが2メートルはありそうな巨大なコンテナも5つほど置いてあります。

配達をする業者やゴミを回収する業者などのトラックもそのまま入ってくるので、芝生の半分は泥がむき出しになってトラックの車輪の跡が残ります。雨が多い気候なのに水はけが悪いので、大きなぬかるみもできています。植え込みは荒れ放題、大きな花壇には雑草とドライフラワーが並んでいて、中庭と外をつなぐ通路にある金属の手すりはペンキが剥げて折れ曲がっています。学期が終わった後ということもあるでしょうが、人影と言ってはゴミ箱から空き缶などを集める浮浪者が一人いただけです。何とかしなければ、という声が上がる所以です。


2-2.スタンレー・キング

ワークショップを指導したCo-Design Groupは、イギリス出身の建築家スタンレー・キング(Stanley King)さんが率いる専門家グループです。キングさんは教育者でもあります。1960年代にカナダ東部のモントリオール市で建築ラッシュが起こったとき、若き建築家として様々なプロジェクトに関わっていたキングさんは、環境の激変によって古いコミュニティーが強いストレスを被る様子を目の当たりにしました。また、知らないうちに馴染んだ環境が急激に変化することで、若い人々が激しい疎外感と無力感に苦しむ様子にも気がつきました。

キングさんは、のちにUBCで教鞭を取りつつカナダ全土で若年層を対象としたリサーチを行いました。その中で、デザイナーにとって有効な判断基準となるアイディアを若者たちから引き出す方法を開発しました。コー・デザインと名づけられたこの方法は後に大人を対象とした形にも整えられ、開発予定地の将来的な利用者とデザイナーの間に確かなコミュニケーションを生むものであるとして各地で活用されています。


2-3.Co-Design Group (コー・デザイン・グループ)

Co-Design Groupは、キングさんが1979年に設立した非公式な専門家組織です。メンバーは、かつてキングさんの生徒だった人々を含む建築家や都市計画者、リサーチャーなど。どの人も作画技術があり、子供や一般人を対象としたワークショップを運行する技術を身につけています。活動の拠点は西海岸のバンクーバー市周辺(BC州)および内陸部のカルガリー市周辺(アルバータ州)です。現在までに378箇所のコミュニティーで地域の将来作りにかかわり、州、カナダ、およびインターナショナルの様々な賞を受賞しています。


3-1.参加者

当日の参加者は約50人。ただ、ワークショップ関係者や大学の係りの人たちなども何人もいて、全く平等に意見を出し合っていたので、一般の参加者の正確な数は把握できませんでした。年齢層は、先生に引率された高校生のグループから80代と思しき学生らしき人まで、幅広く参加していました。ブチャナン・ビル群の植生をすべて把握している年配の造園デザイナーの姿もありました。美術学部の教職員らしき人々からの発言も随所で聞かれました。大学卒業生など、寄付を求められる立場の人々の参加もあったようです。しかし、現役の美術部学生らしい若者たちの姿はそれほど多くなく、発言も少なく、多少の違和感もありました。



3-2.ワークショップの流れ

ワークショップは、ブチャナン・ビル群内の建物の一階ロビーで行われました。かなりの広さがあり、隅の方に椅子が50人分ほど並んでいます。もう片方の隅には受付があり、お茶とコーヒーなどの準備もありました。受け付けて名前を告げると、白いシールにマジックで名前を書いて名札をつけるように言われます。さらに、写真撮影とビデオの収録もあるので、それに同意するかどうかを聞かれ、書類にサインをするように求められました。

定刻になっても、人々は方々に集まってお喋りをしていて、時間だから始めようという気配はありません。ようやく何となく席が埋まっていき、なんとなく始まります。全体の流れとしては、まず開会の挨拶がかなり長いこと続き、続けてワークショップのルールの説明がありました。それから開発予定地の完成したところを想像するタイムラインと呼ばれる過程があり、どんな様子になっているか、様々なアイディアを出します。

その後で実際に予定地を見ながら更にアイディアを練ります。昼食の後は部屋に戻って様々なアイディアを形にする作業が行われます。これは同じく何となくばらばらに取る休憩時間を挟んで3時間も続きます。参加者のアイディアをアーティストが形にしていくというものです。最後に出来上がったイラスト画をずらりと並べ、盛り込まれたアイディアを表にして全員が評価します。それから人々が部屋のあちこちでお喋りしている状態のままで閉会の挨拶があってお仕舞い、というふうに、終始カジュアルに行われました。

なお、この日のワークショップで作られたデザイン画は、さらに多くの人の意見を聞くために、関係者の人通りの多い場所で展示されました。


3-3.開会

まず、美術学部の学部長による挨拶がありました。何十年も前から何とかしなければという意見が出ていたそうなので、やっと実行の運びとなったことが嬉しくてたまらない様子が伝わってきました。雨の多い気候であること、教室の横なので静けさが必要、など、考慮すべき点は多々あるけれど、学生が居心地よく感じる生気のある場所にしたい、とおっしゃいました。

次に、大学所属の建築家からの挨拶がありました。このワークショップや改装計画に関わった様々な人たちを笑顔で紹介して、感謝の言葉を述べられました。参加者に対しても、天気の良い週末の一日をこのワークショップのために割いてくれたことを感謝し、人々の参加がいかに重要であるかを強調なさいました。

さらに、スタンレー・キングさんの挨拶がありました。これはそのままワークショップへの導入でした。暖かく輝く穏やかな目を参加者に向けて、「あなたはこの場所を大切に思っています。素敵なところに生まれ変わったこの場所で、あなたは何をしているでしょうか。何が感じられるでしょうか。周りでは何が起こっているでしょうか。想像してください」とおっしゃいます。

そして、問題に注目するのではなく、理想像を思い描いてその特質を掴もうとするのがワークショップの狙いであることを強調されました。作画技術のある専門家たち(以下、アーティスト)は参加者のアイディアを視覚で認知できるものに翻訳するのが仕事だ、ということも解説なさいました。


3-4. 発言のルール

続けて、キングさんが発言のルールを説明なさいました。これはとても重要なルールなので、大きな紙に大きく印刷して、会場の一番目立つところに2枚も貼ってあります。ルールは3つあります。

一つは、「私」を主語にして話しなさい、というもの。「私たち」という言葉を使って自分以外の人の意見も代表して述べてはいけません、という注意です。「私」を主語にすることによって、自分自身の意見を情熱と確かさをもって述べることができるからです。

二つ目は、解決策を出そうとするな、というもの。デザインがかもし出す効果について語り、あらゆる可能性を考慮しなさい、と書いてあります。これはたとえば、「静かな場所、鳥の声の聞こえる場所」というアイディアを思いついた場合に、「野外パーティーを開きたい」というアイディアをどう扱うかという問題を解決しようとするな、ということです。そういうのは他の様々な専門的な制約などを考慮しなければならない専門家の仕事であり、ワークショップの目的には沿わないものだからです。

三つ目のルールは、他者のアイディアを非難するな、というもの。どれかのアイディアが気に入らないなら、否定しようとするのではなく代替案を出しなさい、どんなアイディアでも自由に流れ込めるようにしなさい、と書いてあります。

これらのルールが存在するのは、建設的な議論をするにあたっては互いを尊重することが欠かせないからです。自分自身を尊重することも同じく大切であり、くだらない思いつきかもしれない、と恐れる必要は全くないということを理解してもらわねばなりません。そのため、ワークショップの本番の前にこれらのルールをしっかり説明するのです。

ここで、さっそく質問がありました。「ローラーブレード禁止」というような、何かを規制するアイディアを出してもいいのか、という内容です。発言のルールに関するものですが、司会者はこれに対して「それでもいいですが、できればそれを実際の自分の行動に置き換えて想像してください」と笑顔で返答しました。ローラーブレードをするな、ではなく、寝転んでいる、ジョギングをしている、などのアイディアを挙げることを薦めているのです。規制は実際的な解決策に当たり、ワークショップの目的には沿わないからです。

3-5.タイムライン

参加者の前の壁には、縦1メートル、横3メートルくらいの大きな紙が貼ってありました。真ん中には水平な線が一本引かれていて、さらに太陽の動きを示す線が弧を描いて全体に引かれています。水平の線には早朝6時から翌朝6時までの時間が刻まれています。ワークショップの最初の段階は、完成した中庭の様子を時間ごとに思い浮かべ、それをこの紙に書いていくというものです。また、向かって右横には縦1メートル横50センチくらいの別の紙があり、それには「特別なイベント」と書かれていました。

進行役をしたのは、Co-Design Groupのメンバーの一人、チャック・スミスさん。スミスさんは、紙の前に立ってキングさんの発言を繰り返しました。「すでに完成したこの場所で、早朝6時に何が起こっているでしょうか。季節はいつでも構いません。毎日の出来事でなくて、特別な日の様子でも構いません。」会場の反応は活発で、すぐさま「昨夜のどんちゃん騒ぎの後片付けをしている」という声が上がりました。あちこちから笑い声が上がり、スミスさんも笑いました。しかし、冗談半分の意見なので笑い飛ばしてお仕舞いではなく、ちゃんと「では、掃除をしている、ということでいいですか?」と言ってちゃんと記入されました。

アイディアは、最初はポツポツという感じで出ていましたが、やがてどんどん手が挙がり始め、大きな紙がどんどん埋まっていきました。私も手を挙げて、「雪かきをしている」というアイディアを出しました。これは、そんなに雪の多くない町で桜の美しい春に思いつくには妙なことであったかもしれません。でも、「えっ?雪かき?」という感じでちょっと驚かれましたが、「じゃあ、それは別紙の“特別なイベント”の方に書いておきましょう」と言って、ちゃんと受け入れていただきました。後からは同行した友人と一緒に「足湯に入っている」という冗談のようなアイディアも思いついて、でも一応言ってみたら、これも「水に親しめる設備」として書き込んでいただきました。

このように、発言は終始肯定的に迎え入れられました。コンサートをしている、読書をしている、などの相反するアイディアであっても、どちらかを否定することなく書き込まれました。「それはいい、面白い」という言葉が何度も発せられました。「こんな思いつきは馬鹿みたいじゃないだろうか」と怯える必要がないので、参加者も安心して発言できるし、楽しく考えることができます。手を挙げても競争率が激しくてスミスさんに気付いてもらえないほど、たくさんの発言がありました。
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by ammolitering7 | 2013-01-23 03:26 | ワークショップ


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