2012年8月ワークショップ

今日はバンクーバー市の主催で行われた都市計画に関するワークショップに参加してきました。緑の少ない住宅地に畑などのグリーンスペースを作ろう、という案があって、候補地だけは決まっているのですが、今はまだ他のことは全然決まっていません。開発計画の一番最初の段階なのです。このワークショップは、これから行われる予定の開発計画に市民の声を取り入れようという試みです。
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ご覧のように、候補地は全くの住宅地の真ん中です。道路の一部を潰して緑地にしよう、という計画なのです。
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今回の予定地は4ヶ所あります。
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ワークショップは予定地の一つである道路を封鎖して行われました。特別イベント、と書いてあります。
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テントが出てますね。2時に開始の予定に少し遅れて行ったのですが、なかなか始まりませんでした。ここではカナダ時間で物事が進行するのだということを忘れていました。。。
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いつ始まるのだろうかと思っていたら、なんとなくいつの間にか始まっていました。いつもだったら一応市長さんの挨拶とか開発業者の紹介とか、多少は形式ばったことがあるのですが、全く何もありませんでした。ややうるさい音楽が始まっていたのが開始の合図だったのかもしれません。

こちらはスタンレー・キングさん。イギリス出身の建築家です。市民参加型の都市計画という分野でこのワークショップの手法を開発した方です。キングさんの方法はCo-Design(一緒にデザインする)と呼ばれ、北米やイギリスを初めとする英語圏で高い評価を得ています。でも、日本ではまだ全然知られていないので、私は今この方の著作を翻訳しているところなのです。この方法はいろんな面でとても効果的なので、できるだけ多くの人に知ってもらいたいと思っています。

どこがそんなに効果的なのかと言えば、たくさんあるのですが、一つにはお金の問題があります。広く市民の声を集めてから開発をすることで、反対運動が起こる可能性はゼロに近くなります。そのため、極端な例では座り込みなどの問題が起きてから解決するとか、デザインを一からやり直す、建築の途上でやり直す、という恐れがなくなるのです。こういうのはものすごくお金と時間の無駄になります。それに、市民が反対運動を起こしてしまったら、それに関わった建築家にはプロとしての未来が難しいことになります。精神的なダメージも大きいのです。ワークショップをすることで、そういうコストを未然に防ぐことができます。

計画に市民が参加していると、器物破壊の問題も減ります。それをするのは大抵はエネルギーを持て余した若者たちですが、ワークショップには大勢の若者たちが関わりますし、多少とも自分や友達が関わったものにはたいていは危害を与えないものです。それに、子供たちや若者たちにとっては、社会の未来に関わったことで責任感のある市民になる心構えも育つし、長い目で見れば郷土での愛着も湧きます。ほかにもいろんな利点があるのです。

キングさんが持っているのは、ワークショップのルールを書いたポスターです。
1、「私たちは」ではなく、「私は」と言う。例えば、妻や子の意見を聞きもせずに夫が「うちの家族はこう思います」と言ったりしていることがあるのです。そういうふうに言うことで、自分ひとりの意見じゃない、自分の意見には何人分もの重みがあるんだ、と印象づけようとする人は少なくありません。
2、解決策を見出そうとしない。あるアイディアと、それがもたらす結果だけに焦点を当てる。
3、他人の出したアイディアに対して批判を加えない。制約や問題点は後からゆっくり考察すればいいのであって、まずは各人が自分の個人的な希望を自由に出すことが大事なのです。
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テントがいくつか用意されています。ワークショップにはいくつかの段階があり、それぞれの段階ごとに別のテントがあるのです。
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人だかりがしていますね。私たちが来た頃にはボランティアらしき人たち以外はほとんど誰もいなかったのですが、だんだん集まってきました。通りがかりの人たちも飛び入りで参加しています。
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人々が集まっていたのはこちら、「開発予定地での一日」という表です。理想の場所が完成したら、自分はそこで何をしていたいか、ということを人々が自由に書き込んでいくのです。アイディアはだいたいの時間帯に合った位置に書き込みます。
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カナダには英語の分からない人も多いので、今回は現地に隣接する公民館で英語を勉強している中国人移民のグループが通訳つきで参加しました。アイディアも中国語で書かれています。日本人の参加者もいたので、英語と日本語で書かれたアイディアもあります。
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絵で描いたアイディアもあります。今回のワークショップの対象者は9歳以上ということでしたが、実際には通りかかった幼児も楽しく参加していました。
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公園で遊ぶ、車で、だそうです。おもちゃの車で遊ぶのか、それとも公園の横に車があるのか、それは本人に聞かねば分からない謎です。
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こうしていくつかアイディアが出されると、テーマ別に大きく分けて、人々もいくつかのグループに分かれます。今日はかなり適当に分かれてましたが、いつもはすべてがもう少しは厳密に進みます。それぞれのグループごとにアーティストがついて、人々が出すアイディアを絵に描いていきます。
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アーティストが描き、書記が人々のコメントを細かく書きとめます。絵を描いていると意見を聞き漏らしたりするので、書記の人が「この人のこのアイディアも描いてください」と促したりするのです。
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だんだんできてきました。
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できあがり~!人々にデザインの細かいところを聞いたりしながら、アーティストがどんどん目の前でアイディアを絵にしていきます。自分のアイディアをこうして目に見える形にしてもらうと、かなり感動します。
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キングさんは一応既に引退しているはずなのですが、なぜか多忙なお年寄りです。ワークショップでは後継者の育成に力を入れているので若いアーティストもたくさん育っていますが、キングさんも楽しく現場で活躍していらっしゃいました。建築を志す若者にとっては、こういう経験はかけがえのないものだと思います。
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デザイン画ができたら、アイディアの要素を文字で表してリストにし、参加者がみんなでそれを3段階で評価します。「すばらしい、ぜひ作ろう!」、「う~ん、もうちょっと工夫したほうがいいみたい」、「これはここではちょっとねえ」の3つです。

ワークショップの過程はこれで終わりですが、こうして出来上がったデザイン画はこの後で地域の人が集まる場所を巡回し、もっと多くの人に見てもらって評価をしてもらいます。数字の評価だけでは表せないコメントも併せて集めます。そうやって多数の市民の目に触れることで、市民のだいたいの意向が明らかになっていきます。その後、行政の担当者やプロの人たちが、予算その他の様々な実際的な制約と照らし合わせて市民のアイディアを検討します。それからプロの手になるデザインが作られ、さらにそれが市民の目に見える場所でしばらくの間展示され、最終的な意見が集められます。実際に建築が始まるのは、これだけの過程を経たのちのことなのです。ワークショップには手間と予算がかかりますが、最良の治療は予防だ、というのと同じようなものなのだろうと思います。この手法は既にカナダなど各地で繰り返し実践され、効果が証明されています。小さいのは小学校の中庭みたいなのから、大きいのは町を丸ごと移転して作りなおすというのまで、多数の事例があります。これが日本にも広まっていくといいなと私は思っています。
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会場にはちょっとした軽食や飲み物の用意もあります。こういうのは全部ボランティアの人たちが用意します。(費用はワークショップの主催者持ちです。)このワークショップには多数のボランティアが関わっているのです。ワークショップには必ず何らかの軽食が用意されるのですが、これは一緒に飲み食いをするという行為が共同体としての人間にとって根幹的なものだからです。予算が余っているから軽食でも、というわけではありません。ワークショップの根本的な目的は、市民参加を促してみんなで一緒に地域社会を築いていく、ということにあります。小さなことですが、この場でのちょっとした飲食はとても有効なのです。
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おまけ。公民館にかわいい絵がありました。子供の絵って、いつも風景の全体が入っているなと思います。私もそういうふうに描けたらいいなと思うのです。
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およそ100年前に建てられたこの建物は、かつては郵便局として使われていました。こういう優雅な建物で働いていたら、自然と立ち居振る舞いも優雅になるような気がします。100年経って私たちの周りの建築の様式はずいぶん様変わりしました。
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by ammolitering7 | 2013-01-23 04:19 | ワークショップ


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