第5章ー2 (イラスト込み)

2-6 視覚、光、色
「見る人の目がその場を眺める。そして動きの中で建築が生まれるのを見る。言い換えれば、設計は抽象的な要素ではなく、視覚的な経験を組織化する体系である。それは動きの中に生じ、時間と共に現れる・・・『建築的な散歩道』の脚本である。」ル・コルビュジェ(注22) 

書記の質問:周りに何がありますか?自然な光、あるいは人工的な光がありますか?その向こうにはどんな景色がありますか?色の幅はどうですか?青、赤、あるいは黄色ですか?色は暖色ですか?寒色ですか?光の当たるところにいますか?影の中にいますか?

(第1段落)これらの質問への答えは、位置づけ、窓や人工的な照明の種類や位置、表面の始末、屋外のスペースのまとまり方に影響します。視覚的な知覚にとっては、光が鍵となります。ハイライトと影とで物体の存在を形作るのは光です。

光は不透明なものに対して透明なものを浮き上がらせ、色の感情に訴える性質を気づかせてくれます。音楽的な調和を喜ぶように、人間の目は光の中にある比率、線、リズム、繰り返し、そして色の視覚的な調和を知覚します。また、感情的な反応を引き起こす特別な種類の光があります。ネオンのエキサイティングな点滅、木々の葉を通した柔らかな日の光、ロマンチックな気分を誘うロウソクの光と月光などです。

クリストファー・アレキサンダーはこう述べています「人は本質的に向日性だ。人々は光に向かって動き、じっとしているときには光の方を向く」(注23)。

このように、光と動きは関連しています。人が暗い森の中で明るい開けたところに向かって歩くように、光の好みもまた、デザイン用語に翻訳できるイメージを呼び起こします。ある場所に日の光が欲しいという希望は、法律によるどんな高さ制限よりももっと強く、周りの建物の高さに影響します。

日の出や夕日を見たいという希望が述べられれば、それは自然と建造物の位置づけに影響します。語り合うという活動は、頭の形がシルエットになって見えるときより、顔に光が当たっているときのほうが格段に楽しいものです。したがって、前景は背景より明るくなければなりません。

「彼らは修道教会の大きな本堂に入って座った。高い、涼しいアーチ型の屋根。その有名な扇状のはざま飾りは、彼の心にまるでそれが緑したたる静寂の中の枝葉が茂った景色であるかのように感じさせた。そして、それと共に彼の魂は、風に運ばれてはるか遠くへと漂う、多くの葉のあいだの一枚のようだった!その高い屋根にはかすかに緑色がかった霧がかかり、下にある色つきの窓から入り込む水平な日の光の柔らかな温かさと相まって、洞窟の中のような対照の効果を出していた。」ジョン・カウパー・ポーイズ
(注24)

(第2段落)審美的な価値とは、主に人間に共通的な生理に基づいているために共有されるものです。二つの目による視野と、目と目の間の距離のため、人間は特定の相対的な比率を好みます。かつて、ある大きな建物の前に座っていたとき、私たちコ・デザインのアーティストはその比率について考えました。その建物をスケッチしていて、主な特徴と他の特徴の比率を知る上で座標として使うために、私たちは水平あるいは垂直の主な線を探しました。

しかし、座標として機能するような強調された垂直の線も水平の線もありませんでした。この場合は、ある特徴と別のそれとの比率を計るのは困難でした。1:3と2分の1、1:4と4分の1、1:5と2分の1など、変わった比率だったからです。その建物をスケッチしようとする試みは非常にいらだたしいものでした。ひどく嫌な感覚がして、もう見ることができないほどでした。

しかし、他の場所でスケッチしたときは大きな喜びを感じました。そして、簡単に描くことができました。これらの建物は、1:1、1:1と2分の1、1:2などの比率があり、主な特徴の間には1:1.6という黄金比が使われていました。つまり私たちは皆、ある構図が美的な感覚を満足させるかどうかを潜在意識で知っていたのです。

「物がぴったりと
高いか低いか
平べったいか曲がっているか、それを知ること
これははっきりと見るという性質に他ならない
そして私は幸いにも物をはっきりと見ることができる
そうでないということはありえないのだ」アントニオ・ガウディ
(注25) 

(第3段落)別のときには、BC州のペンダー島でのスケッチ教室のときでしたが、私たちは景色の大きさや比率をあらかじめ調べることなく、単に魅力的だからという理由である景色を選びました。最も好ましく見える場所に身を置いてから、私たちは自分たちがスケッチしたばかりの景色の主な特徴の間の比率を測ってみました。どの場合も、比率は私たちが人間の目にとって特に好ましく映ると知った比率と全く同じでした。

それはまるで、ちょうど音楽家が音楽の中に調和を作り出すように、私たちも比率の中に調和を選んだかのようでした。私たちがスケッチするのを楽しむ比率は、私たちがある建築において美しいと感じるものと全く同じであることが証明されました。
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(図)視界の区分:ゾーン1~4

(第4段落)現地の描写は、人間の視界の4つのゾーンすべてにおける経験をカバーする必要があります。

*普通の円錐状の視界
*高齢者や子供が最もよく経験するゾーン。足元に近い、床のテクスチャーや段差に注意。
*頭上の気づかれないゾーン
*背後の部分。一方通行の道を振り返ってみると、全く新しい視覚的な経験が現れます。

(第5段落)色は私たちにとって強い感情的な含意を持つことが多く、気分に影響します。

「もしもこの壁、あるいはあの壁が青だったら、それは引っ込んで見える。もしも赤だったら、平坦なままだ。または茶色。私は黒にも、あるいは黄色にも塗ることができる。色は設計図や区分けと同じように建築の力強い手段だ。もっと言えば、色は設計図や区分けの要素そのものだ。」ル・コルビュジェ
(注26)

(第6段落)緑色は寛ぎをもたらします。明るい青の中にいると、精神的に明晰になるのに役立ちます。赤は身体的な活動と落ち着きのなさに繋がるかもしれません。色の強さ、または色度は、狭い場所を視覚的に広くしたり、がらんとした場所の空虚な感じを抑えたりすることによって、建築スペースに影響します。

2-7 触覚
「イメージの世界は、単に几帳面な感覚器官だけに刻まれるのではない。むしろ、対象を見るとき、私たちはそれに近付こうとする。目に見えない指で私たちは自分の周りの空間を動き回り、離れたところにあるそれに近付き、それを触り、捕まえ、その表面をなぞり、輪郭を辿り、テクスチャーを調べる。それは大いに動的な行為だ。」ルドルフ・アルンハイム(注27)

書記の質問:あなたは何の上に立っていますか?または座っていますか?どんなテクスチャーですか?空気の感じはどうですか?温かいですか?ひんやりしていますか?肌に雨や日の光が当たりますか?屋内にいるなら、温かさは暖炉のような熱源からきていますか?それとも空調設備からですか?

(第1段落)環境の知覚は、それに最初に触れたときから始まります。つまり、足元の床です。提案されている環境を、立つ床や座る椅子から始めて考えてみてください。作業用の長靴を履いて産業的な鉄格子の冷たい鉄鋼の上を歩くのは、裸足で太陽に温められた砂の上を歩くのとは正反対です。歩く表面にはいろいろあります。玉石、レンガ、アスファルト、木、草などです。ガラスや磨いた大理石の滑らかさは、木の板や小石の入ったコンクリートの粗さとテクスチャーが正反対です。

(第2段落)温度、湿度、テクスチャー、形のかすかな違いの差異において、肌、細胞膜、そして末端神経の生理的な知覚は非常に敏感です。それらは私たちの視覚的な知覚を強化あるいは変化させるかもしれません。意識的にとは限りませんが、私たちの環境の理解の多くは触覚を通して経験されます。

顔に受ける日の光の温かさ、海で泳ぐときの冷たいショック、地下鉄の鉄格子から吹き付ける熱い風、アパートのバルコニーを渡る涼風、、、どれも環境のデザインについて何かを示しています。温度の好みも、暖房や空調の必要性をデザイナーに示します。

(第3段落)触覚とテクスチャーに関する発言は、デザイナーに使用する資材(ベルベットのカーテン類、石のベンチ)に関する情報も与えます。そして、ある一人との親密な触れ合い、または群集が押し合いへし合いしているなど、他の人々との接触も示します。

2-8 味と匂い
書記の質問:近くに食べ物や飲み物はありますか?海や植物からの自然な匂い、または人工的な匂いはありますか?

(第1段落)味は飲食と活動を関連付けます。匂いは記憶の想起のための最も強力な媒体です。ある物事に対する私たちの反応は、過去の活動を思い出すことに基づいています。思いがけなく樟脳の匂いを嗅げば、祖母の家の屋根裏の様子を思い出すかもしれません。あるいは、通りすがりの人の香水や過去の恋を思い出させるかもしれません。

味と匂いの知覚は動きと関わることもあります。居間の隣にある台所、1ブロック離れたところにあるレストラン、または自然の中でのキャンプなど、 飲食物は普通、今いるところとは別の場所で得られるからです。匂いは自然なもの(植物、動物、天候、土、人々)から機械的なもの(油、ゴム、排気ガス、熱い金属、ペンキ)まであります。

(第2段落)昔ながらの商店街では、表のドアから換気します。そのため、歩道を歩くと中の活動の嗅覚的なカタログを体験することになります。靴作り職人の店、パン屋、八百屋、タバコ屋は、どれも独特の匂いがします。しかし現代的なショッピングモールでは、一定した匂いのない内部環境を維持するため、建物の背後から換気します。

嗅覚による知覚が購買活動にとってとても重要であると分かれば、テナント店はモールの管理人に換気扇を逆向きに回すように頼むかもしれません!

3、遊歩道のためのサンプル対話
以下のメモは、BC州バンクーバー市フォールスクリークのデザインの参加者たちとのインタビューから抜き出したものです。参加者の反応の例として紹介します。

「人々」
ここに住みたい。プライバシーが欲しいが、他の人たちの近くに住みたい。何らかの共同のリビングルームとキッチンがあるが、プライベートな部屋もある。ボートがたくさんある。夜は停泊し、小さな旅館やホテルやホステルのように、ボートの中に泊まれる。でも、ボートで埋まって水が見えないほどたくさんではない。

「動きと循環」
ボートのある景色の中で、動きがたくさんある。入ってきたり、出ていったり。漁船もあり、魚を売っていて、近くにレストランもある。殺風景ではなく緑がたくさんある。小さな塊の緑。緑地は線状になっていて、皆が少しずつの緑のそばに住むことができ、すぐに行けるようになっている。自転車を停めるところがある。道路わきに自転車を停める余地がある。
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(イラスト)屋外レストランのある歩行者道路のコンセプト画。

「時間」
一日24時間開いている。夜通し続く活動。活気があり、かつ都会的。

「気分と雰囲気」
小さくてカジュアル。おいしい食べ物や、人々が集うことで知られるような場所。インテリアでではない。友達に会えるから行くようなところ。どんな種類の人でも集える。コミュニティーの中で一日を過ごせる。(コーヒーなど)飲み干したらすぐに出なければいけないのではなく、その場の雰囲気を十分に満喫するまでいられる。

「音」
音楽、子供が遊ぶ声、母親が呼びかける声、ときどき車の音がする。タグボートの笛の音。交通の音はしない。

「視覚、光、音」
夏は明るい色、ひさしの色、どの階にも植物がある。色とりどりの衣服。でも冬にはもっと森のような色になる。緑、灰色。3階建て。バルコニーに子供たちの姿が見える。家庭と外部を繋げるためのバルコニー。居間の延長のようなもの。でも、少しプライベート。裏庭がある。でも前庭や無駄な脇の庭はない。どこにも繋がらない無駄な袋小路はない。緑がたくさん、でも公園ではなく、一つのエリアから別のエリアへ繋がって楽しむために散在している。結びつき。

「触覚」
私の足くらいの大きさで、パターンがあるものの上を歩く。イスラム風、またはムーア(北アフリカ)風、どこから見てもほんの少し違う。場所によって、へこみと出っ張りの差異を感じられる。自転車はあるテクスチャーの上を行き、歩行者は別のテクスチャーの上を行くのがはっきりと分かる。水際にはフェンスがない。単に歩道が高くなっている。ほんの小さなガラスの板、レンガ少々、滑らかな手すり、子供が手を洗うための小さな噴水、彫刻の顔を触る。

「味と匂い」

食べ物、中華、ギリシャ料理。靴屋の革、ボートと海の匂い、香水店、売っている物すべての匂い。

4、現地視察での知覚経験を強めることに関して

(第1段落)ある予定地をグループで知覚しようとするとき、目的は私たちが共通して持っている価値観を見出すということです。それは意見の一致を探る行為です。担当者の仕事は、そうした価値観を指摘して明確化し、ワークショップの参加者がその性質にはっきりと気づくのを助けることです。

(第2段落)人は往々にして環境を部分的に知覚します。現地の視察では、特定の性質が抜け落ちることのないように注意し、景色がすべての感覚を活性化するようにする必要があります。無駄話はせず、経験に関して互いに意見を交換するだけにします。このためには、一列になって、あるいは一人で歩くのが効果的です。

また、現地が持つ膨大な情報を分類するためには、一度に一つの活動に集中することです。この活動に関連する現地の性質、特徴、そして制約に注目します。

(第3段落)可能であれば、現地で皆でピクニックランチを食べるのが良いでしょう。商業地域であれば、地元で食べ物を買います。こうすることで地元の商売人に会ったり他の客たちの活動を観察したりすることができます。ランチを食べるときには座って食べるための場所を探すので、現地とそのスペースを視覚的に観察することになります。また、静かな場所を選ぶので、動きのある道や群集の循環を知覚します。

また、日の当たる場所を探すことで、光、影、そして位置づけの様子を観察することになります。座るところを見つけると、表面の様子とテクスチャーと資材を調べます。食べている間は喋らないので、その場の音を聞きます。食べ物の味と匂いは、環境の中でのこれらの感覚の知覚を呼び覚まします。
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(写真)ワークショップの準備のために現地をスケッチする。(撮影:ビル・ラティマー)
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(イラスト)現地スケッチ。

5、現地をスケッチする

(第1段落)コ・デザインのアーティストは、市民とのワークショップ・デザイン討論で使うための景色の要素を学ぶため、現地をスケッチします。コ・デザインの描画の真髄は、一群の人々のために想像上の景色を作り出すというワークショップの中で出来上がるものです。

そこで描かれる光景は、その場所の理想的な未来の姿です。しかし、それはもちろん、コミュニティーの中央大通り、開発されていない空き地、放置された建物など、実際の場所に基づいて描かれた姿です。コ・デザインのアーティストは、現地の現状のおよその姿を描き出すことができなければなりません。

記憶に収めた現地の状況を完全に描き出すために、歴史的な建造物、現存する植生の種類と塊、独自の地形、隣にある建物の種類など、現地の特別な特徴を記録しておく必要があります。

(第2段落)スケッチブックを持って市民ワークショップの2~3日前に現地に行くには他にも理由があります。描くこと以上に対象をよく見るように強いるものはありません。写真、ビデオを撮影したり、たくさんのメモを取ったりすることよりも、アーティストはスケッチすることによって現地をもっと深く学ぶことができます。

現地をスケッチすることで、アーティストは真剣に、そして注意深く現地を観察します。さらに、数分の間じっと立って絵を描く必要があるので、現地の美しさや欠点、その雰囲気、匂いと音、そして通り過ぎる人々の動きについて気づく機会にもなります。現地をスケッチすることで、あとでワークショップで同じ要素を描くときの練習になります。

(第3段落)アーティストはワークショップの前に少なくとも一度は現地を訪れるべきです。冬なら、車の窓から描くのでも十分です。現地を訪れる理由は、完成された立派なスケッチ画を描くことではありません。あとでワークショップで討論をするときに役に立つ現地の要素を観察して記録することです。知覚するためにはしばらくの間じっとしていることが必要なので、環境をもっとよく感じ取ることができます。
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(イラスト)メモを書きこんだ現地スケッチ画。
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by ammolitering7 | 2013-06-21 08:11 | 「コ・デザインの手法」


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