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第6章 (イラスト込み)

第6章 対話の中で描く

1、コ・デザインのアーティスト
(第1段落)コ・デザインの描画技術には、想像上の景色を生き生きと描くことに慣れていることと、意味のある環境的な情報を伝える能力が必要です。できあがった作品は、公共の美術館で展示されたこともありますが、本来は環境に関する情報交換のための便利な作業用「文書」です。ある一定の芸術的な技術が必要ではありますが、ワークショップで描かれる絵はいわゆる芸術作品ではありません。

(第2段落)簡単に言うと、この技術に必要なのは、素早くスケッチする能力、豊富な心の中のイメージ(グラフィックな語彙)を使って正しい構図で描く能力、そしておそらく一番大切なのは、他の人たちの前で彼らの指示に従って描く能力です。

この章では、こうした特定の技術について、そしてそれがデザインの過程で市民との協力関係を形作るのにどのように役立つか、ということを詳しくみていきます。

2、アーティストの役割について

(第1段落)コ・デザインの絵には、「アーティストに環境をデザインする上で大きな影響を持つリーダーとしての役割を与える」というユニークな性質があります。

(第2段落)アーティストは、この経験を珍しくて気分が高揚するようなものだと感じます。ワークショップの参加者たちは、アーティストを人ではなく自分たちの手や目の延長として見るようになります。参加者がこれまで自分の心の中だけで見ていた景色をアーティストがその優れた能力で紙の上に表していくにつれて、参加者の喜びと高揚感は増してきます。

アーティストが本当に参加者の手や目の延長だということを示す幾つかの徴候があります。参加者は、アーティストを飛び越えて完全に絵に注目します。ときたまちらっとアーティストの目を見て、絵が思うようにできているかということに関して同意を示すだけです。

アーティストと参加者の間で意志の疎通をするための主な手段は、目を合わせることです。絵が出来上がると、グループのメンバーはそれにサインしますが、アーティストにもサインするように頼むのを忘れる、ということもよくあります。

絵が出来上がると、グループのメンバーは「自分たちの」絵を見せるために他の人たちを連れてきます。そして作品について個人的な誇りを持って語ります。

(第3段落)コ・デザインのアーティストの役割は、他の意味でも特殊です。つまり、絵は公開の場で描かれるので、アートスタジオの孤独な作業とは違って社会的な状況におけるコンセプト化と描画の能力を示すことができます。

アーティストは作業の進展に欠かせない存在として機能することを要求されます。そして、彼らの芸術的な技術は、実際的、必要性がある、稀なもの、そして有益な能力として見られます。アーティストはリーダーの役割を果たし、討論の焦点を絵の作成に置く手伝いをします。

考えやアイディアは、すべて創造的な直観とアーティストの知覚、すなわち言語を線に変えるフィルターや転換機を通されます。つまり、アーティストは受身的な役割を果たすのではなく、集合的な作業の発展を導き、プロセスにおける動的な想像力を伝えます。アーティストの影響については、のちほど詳しく論じます。

3、触媒としての絵
他の数人の人々の指示の下で描く能力、すなわち彼らのアイディアを促し、提案に耳を傾け、そしてそれを一貫した視覚的なイメージに組織化する能力は、コ・デザインのアーティストにとって最も難しいものです。

左脳の論理的で合理的な言語に基づく活動と、右脳の芸術的、創造的でイメージに基づいた活動の間を、行ったり来たりしなければなりません(注29)。話すことと描くことを同時に行うのは、とても難しいものです。ここでは、描くという作業を物語を語っているのだと考えると役に立ちます。

参加者の物語、想像の中の新しい場所で何らかの活動にいそしむ物語です。アーティストとワークショップ参加者が一緒に絵に取り組む様子を見てみましょう。
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(イラストA)
アーティスト:あなたが座っているところを描きましょうか?それとも立っているところですか?
参加者:きっと座っていると思います。

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(イラストB)
アーティスト:どんな椅子に座っていますか?
参加者:屋外のレストランにあるような、背もたれの丸い椅子です。

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(イラストC)
アーティスト:どんなテーブルについていますか?
参加者:丸いテーブルです。脚が金属で、先がくるっと丸まっているタイプです。
別の参加者:パラソルがあります!

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(イラストD)
アーティスト:テーブルには他に誰かいますか?どこに描きましょうか?
(アーティストは次の人物を描く場所を探して絵の上でゆっくりと手を動かす。)
参加者:そこです!


「対話の中で描く」:
A.アーティストは座った姿勢の人物を描くが、椅子は描かない。
B.アーティストはグループの中の他の人たちをちらっと見て、同意があることを確認する。
椅子を薄目に描きながら、アーティストはもう一度同意を確認するためにグループを見る。
C.アーティストは再びグループを見て、認められていることを見てとったら、テーブルとパラソルを薄目に描く。
D.アーティストはグループの指示に従ってテーブルについている人と他の人たちを描く。



この場合、絵は屋外のカフェの様子を伝えることを目的としており、質問は常にそれに基づいて展開しなければなりません。アーティストとグループのメンバーとの間の対話は、アイディアと情報の双方向の交換です。グループは絵を描く上で文字通りアーティストに指示を下していますが、皆が創造的な瞬間を共有しています。

対話の流れを維持して参加者に彼らの個人的な内面の視界を明確にするように促すのはアーティストの仕事だからです。

4、アーティストは支配的になるのか
(第1段落)アーティストが皆で共有するイメージではなく自分が作った個人的なイメージへとグループを誘導するのではないか、という恐れは杞憂です。潜在意識的に、アーティストは個人的かつ文化的な価値観と好みを差し挟んでイメージの発展を導くかもしれません。

しかし、コ・デザインのアーティストは大抵の場合は都市計画やデザインの分野の人たちなので、プロとしての十分な技術と知識があります。環境に関する知識があり、建築的、技術的に十分な能力があることを考慮すべきです。

対話に私たち自身の考えを入れるのを避けるために、そうしたプロとしての知識を否定して、言うなれば「馬鹿な振りをする」のは無益なことです。コ・デザインのアーティストとワークショップ参加者の間の特別な関係はむしろ、アーティスト/デザイナーにとって参加者一人一人と機能的な協力関係を築くためのエキサイティングな機会です。両者の合同による知識と経験を共有することで、どちらかが自分たちだけで作り出すよりも良い結果を作り出すことになります。

(第2段落)イメージの発展において、アーティストの見方が支配的になるのを防ぐための構造的な仕組みもあります。たとえば、参加者は投票のときに棄権したり、無視したりすることができます。皆で一緒に絵を描いている間に、小さなグループの間に強力な共有感覚が生じます。

グループの中のそれぞれの人がスケッチの要素に貢献すると、絵全体への所有の感覚が育ちます。グループのメンバーは、絵が提案に合わないように見えたり、何かが正しくないと感じたりすると、すぐにアーティストに知らせます。

(第3段落)そのためにも、絵ができていく中で、提案がなされたときに参加者の目を見てチェックすることが大変重要になります。これはグループの満足度を測るのにもっとも速くて最も正確な方法です。

アーティストは、グループが描写するビジョンに近付くために、絶えず目を合わせます。そして、グループの静かな反応を観察することによって、絵への同意または不同意を知ることができます。こうしてアーティストは、できあがった絵がグループの希望を正確に反映するものとなるようにして描いていきます。

参加者の独創性と想像力を通して絵ができあがっていくにつれ、グループの中で最も内気な人の中にもインスピレーションが広がり、創造的になっていきます。これは視覚的なプロセスなので、関わる機会はグループの中で一番弁の立つ人に限られるということはありません。英語に困難のある人でも、自分のアイディアを共有することができます。

(第4段落)もちろん、絵のスタイルがアーティストの特定のスタイルを反映するのは避けられません。誰もが紙の上で自分を独自に表現するからです。しかし、絵の内容はグループの産物であり続けます。このようにして、アーティストとグループの両方が絵に対して所有の感覚を持つようになります。

私たちの経験から、アイディアを肉付けして、より豊かな環境を描いた物語を絵という形で伝えようとする中で、参加者がアーティストの芸術的な能力に対して持つ畏怖の感覚は、すぐに共同作業の感覚の影に隠れてしまいます。

程なくして、参加者たちは「違います、椅子にはクッションがついていて、背もたれは丸っこい形です」、「歩道のこのへんに、もっと木がたくさん要ります」などと堂々と発言するようになります。
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(写真)アーティストが指示とアイディアを求めてグループのほうを見る。(撮影:フレッド・クリングベール)
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(写真)対話の最後の色塗りの段階で、参加者が自ら塗っているのでアーティストは離れて見ている。(撮影:ジョン・マッケンジー)
by ammolitering7 | 2013-06-21 08:45 | 「コ・デザインの手法」


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