第7章 (イラスト込み)

第7章 コ・デザインの描画の分析

1、描画の流れ

コ・デザインの描画の各部には、それぞれ特定の機能があります。カルガリー市のランジェヴィン・コミュニティースクールを例に取りましょう。屋上に温室を作るという提案のための調査です。ある物語を語る場合、対話が物語の背景を設定する一方で、そうした言語によるアイディアを継続するために絵が描かれます。以下、描画のそれぞれの部分を章ごとに説明します。

(1)人物を描く
人物の絵から始めることは、コミュニケーション上のいくつかの利点があります。人が景色の中心に置かれることで、見る人はその景色を自分の周りの本物の経験として視覚化することが可能になります。人物を空間の基準として確立することにより、絵は一層人間的な大きさを持つことになります。

景色は人物の目の高さを基準にして作られるので、参加者とアーティストの双方にとって本当に視覚的な経験になります。アーティストにとっては、人物は景色の中に縮尺を確立するための基準にもなります。目から地面までの長さは、他のすべての物を絵の中に正しく配置する基準になるからです。

(2)家具と床の表面について話し合い、描く

環境との最初の接点、すなわち座っている椅子や立っている床について考えます。形、仕上げ、素材が景色の雰囲気と質を確立し始めます。

(3)中心人物の周りに他の人々を描く

これは景色の中で周りの人々が与える社会的な距離の感覚を表し、デザインの過程における「人優先」の考えを強めます。つまり、全体的な人間の風景、社会的な活動を視覚的に描写し、さらに参加者が景色の中に自分を見て、描かれている活動を自分自身の経験と関連づけられるようにします。他の人物の存在は、活動全体に必要とされる空間の大きさ、平方フィート数に翻訳されます。

(4)参加者の指示に従って他の人物を描き加え続ける
人物が使っている家具、歩く床の表面、その他の周囲との接触点を描きます。周囲に関する話し合いは、光と、それが当たる場所(人々の顔、明るい休憩所、植え込みなど)に焦点を当てます。これは窓や天窓の数や配置、それらの間の間隔を決めるのに役立ちます。
f0239150_9111100.jpg



f0239150_92982.jpg

(イラスト)ワークショップの絵の流れ:
A.グループの指示に沿ったポーズの人物を描き、次に家具を描く。
B.参加者が指示する位置に他の人々と家具を描く。
C.人物を加え続け、指示に従って周りの細部を加え始める。
D.景色を完成させる。特徴を説明するメモを加える。


(5)景色を完成させ、メモを加える
絵の周りに書き込むメモは、視覚的でない要素を記録する助けになります。絵そのものは、望ましい経験の完全な姿を他の人たちに伝えるための細部、すなわち滝の音、植物の匂いなどを描き出すことはできないからです。

(6)参加者にサインするように頼む
この単純な行為によって、参加者の作画体験が完成し、絵の内容に対する責任感を強めることになります。また、描かれたものを現実とするために、プロジェクトに対して関係者としての関心を持ち続けることにも繋がるでしょう。


2、ワークショップに必要なものを用意する
(第1段落)アーティストにはそれぞれ、イメージ・ワークショップのための道具一式があてがわれます。まず、19インチ(48センチ)x24インチ(60センチ)のスチレンボードを、軽くて持ち運びやすい画板として使います。これはアーティストの膝の上に置きます。アーティストにとって描きやすく、参加者にとって見やすい位置にします。

立って描くのを好むアーティストもいるので、その場合はイーゼルを使ったり、ボードを壁に貼ったりするのも良いでしょう。どちらにしても、大事なのは参加者が絵とアーティストの目を見やすいようにすることです。

(第2段落)インクのにじまないベラム紙の上に、フェルトペンでくっきりした絵を描きます。ワークショップの前に、スチレンボードと同じくらいの大きさの紙を何枚か重ねて、ボードの上にマスキングテープで貼っておきます。参加者が替わる度に、毎回新しい紙の上に描き始めます。

紙の大きさとペンは、PMT(photomechanical transfer 写真転写)プロセスを使って白黒で複製するときに向いているという理由で選んだものです。

(第3段落)先の尖った黒のマーカーと、先が斜めになったカラーペン10色セットも用意します。選色はあえてシンプルにしていますが、描いてくれと言われることの多いものを描くには十分なバリエーションがあります。コ・デザインの絵における色の使い方に関する章で、選色の詳細を述べます。

3、描画のためのウォームアップ・エクササイズ
「筆遣いの6つの要点」
『第一は霊と呼ばれ、
第二はリズム、
第三は想念、
第四は景色、
第五は筆、
そして最後は墨である』荊浩(けいこう、生没年不詳)、唐末・五代後梁の山水画家
(注30)

(第1段落)経験を積むことで、他の人たちの前で少々の自信を持って描けるようになります。コ・デザインのアーティストは、ワークショップでの描画セッションの前に、ウォームアップするために特定の描画練習をします。このシンプルで短い練習によって、目と手の整合、他の人のために描く自信、そして遠近法のレイアウトの正確さを高めます。

(第2段落)最初は、点を線で繋ぐ練習です。紙の上に点がランダムに描かれています。一つの点から始め、次の点へまっすぐな線を引きます。常に目を第二の点に置くようにし、手で視線を辿ります。次は別の方向に引いてみます。目と手の整合が向上するにつれ、2つの点の間の間隔を長くします。

(第3段落)次の2つの練習は、一点に集中する遠近法の線の配置の正確さを増すためのものです。さきほどと同じ、点を線で結ぶテクニックを使って、想像上の頂点または消失点から扇状に伸びた2本の線を引きます。次に、この消失点に目を置いたまま、最初の2本の間、つまり扇の内側に第3の線を引きます。

同様に、想像上の頂点から2本の線を引き、3番目の線がこれらの外に(扇形の外側)になるように引きます。

(第4段落)最後に、これらの線描の原則を、遠近法の中の後退する台形を定めるのに使います。まず、水平線上に集中する3本の線を引きます。それから、遠近法上に現れるように、最初の台形の位置を推測します。次の台形は最初の台形のおよそ半分の大きさにします。推測の正確さは、台形の斜めの線を水平線上の集中する点に引くことでチェックできます。
f0239150_924544.jpg



f0239150_933048.jpg

(イラスト)描画のためのウォームアップ・エクササイズ:
A.点を線で繋ぐ。
B.扇形の内側。
C.扇形の外側。
D.遠近法上の後退する台形。


4、絵を描き始める

(第1段落)クライアントグループまたはユーザーグループとの対話で絵を描くことになり、19インチx14インチの紙の前に座りました。目の前の果てしもない白い広がりは威圧的で、頭の中も同じように真っ白になります。どこから始めたら良いでしょう!?答えは、まず、話すことからです。描くことからではありません。話は、描こうとする活動に焦点を当てます。
f0239150_94492.jpg

(イラスト)描く準備をする:
A.硬く縮こまった姿勢だと、硬く縮こまった絵になる。
B.見る角度が正しくないと、絵が歪む。
C.腕全体を動かして描くと、自由でリズミカルな絵になる。


(第2段落)悪い姿勢と描画に対するネガティブな態度には、体の硬さが関係しています。紙の表面に覆いかぶさるようにして身を硬くして座ると、同じく小さく固まった様子の絵ができあがります。水平な面の上で描くと、歪んだ絵になります。この歪みは、紙に少し角度をつけることで軽減されます。

(第3段落)ボードから十分に離れ、腕全体が動けるようにすると、より大きな自由と、緊張のほぐれた状態が得られます。肩から出る振り子のように腕が自由に揺れることができるのが理想的です。手首と指を使った小さなコントロールされた動きは、細かい細部を描くのには向いていますが、コ・デザインの絵の大きく、流れるような、そしてリズミカルな動きのためには、肘と肩を支柱として使うのが向いています。

(第4段落)軽い音楽があるとこのリズムが生じやすくなります。紙の上で、紙には触れずに、目に見えない線が見えてくるくらいまでペンを揺り動かします。利き手の小指の下側で軽く紙に触れて、支えとコントロールを与えます。そしてペンは、手が痛くならない程度にしっかりと持ちます。(まるでゴルフのコツのようですね!)

(第5段落)それでもまだ紙は白紙のままです。これから描こうとする絵は活動に基づくものなので、食べている、自転車に乗っている、机についているなど、その活動をしている人を描きます。この中心人物の目から水平に描いた線がこれからの遠近法の水平線になり、他のすべての環境的な要素を配置するにあたっての基準になります。

その最初の人物を描いたら、絵の他のすべての要素はそれに関連づけられます。そして、もはや絵は白紙ではありません。

5、景色を作る:対話の中で描くためのグラフィックなツール
(第1段落)コ・デザインのアーティストは、デザイン対話から絵へと滑らかに移行するためのツールを幾つか持っています。おそらく、中でも最も重要なツールは遠近法でしょう。絵は常に、活動にいそしむ最初の人物から始まり、それから立体的なスケッチへと進展します。

テクニックは、伝統的な遠近法の絵よりもシンプルです。コ・デザインの絵は、あらかじめ平面図や立面図を用意することなく描きます(注31)。

(第2段落)これ以降は、読者は遠近法を使って描くことに対して基本的な理解があるものと想定します。

5-1 対話の中で描くための便利で大切なツール
コ・デザインのアーティストは、絵のスタジオの落ち着いた環境の中で描くのではなく、市民ワークショップの混沌として騒々しい環境の中で描きます。参加者は、アーティストが消せないフェルトペンで描いている途中で気が変わったりします。どうやって作業を進めればよいのでしょうか。

5-1-1 計測の基本ユニットとして人物を使う

(第1段落)コ・デザインの絵はいつも、現地で何らかの活動にいそしむ人物像から始まります。この人物は、紙の中央あたりに高さ4インチほど(10センチほど)の大きさで描かれます。人物の絵のところから薄く水平線を引きます。これがこれからの遠近法のための水平線になります。

この最初の人物の目は、遠近法の消失点にもなります。この時点で、スケッチの他の要素について参加者にあらかじめ尋ねておくのも良いでしょう。しかし、まだ遠近法の枠の中には描きこみません。参加者は、もっと人物や家具や植生を入れるように指示するでしょう。最初の人物を定規として使って、やがてこれに歩道や車道や建物が加わり、その場をさらに形作っていきます。
f0239150_945934.jpg



f0239150_953838.jpg

(イラスト)空間を測る物差しとしての人物:
A.4インチほどの高さの人物から始める。
B.他の人物を描くことで景色が定まってくる。
C.人物は水平および垂直の物差しとして機能する。ここでは、8フィート(2.5メートル)幅の歩道が簡単に加えられた。

f0239150_961589.jpg

(イラスト)活動を絵と相関させる:
A.コ・デザインの絵は活動の集合とも見なされる。
B.それぞれの活動は、次のものと重なる2次元の平面と見なされる。
C.子供のおもちゃであるシャドーボックスのように活動を層にして重ねるのは、その場に生き生きとしたパターンを描くグラフィックな方法である。

f0239150_9115912.jpg



f0239150_9122834.jpg

(イラスト)室内の景色を配置する:
A.室内の景色の始まり。
B.身長5フィート(1.5メートル)の人物が部屋の水平および垂直な限界を定める基準となる。
C.奥行きの長さは、背後の壁になる位置を決定する。最初の台形の大きさを横の壁に描き、それを遠近法に反映させる。


(第2段落)コ・デザインの対話が活動に焦点を当てるように、コ・デザインの絵も同じように活動がその焦点となります。景色を、「互いに重なる活動の連続が絵という平面に後退したもの」と考えるとよいでしょう。複数の活動が層となって平面の上に重なったものが絵です。子供のシャドーボックスが、二次元の紙を切り抜いたものを重ねて三次元の錯視を見せるようなものです。

(第3段落)最初に描かれた人物は、遠近法上で距離を決定するための測定単位になります。この人物の目の位置を、床から5フィート(1.5メートル)とします。この単位は、描画用のペンで描く水平および垂直の値を決めます。この基準人物が立っている平面に、壁と天井の位置を枠取りする想像上の「窓」(枠線)を描きます。

この「窓」は、部屋の境界を決定するための助けとして実際に描きこむこともできます。絵全体が、それぞれが一つの活動に呼応するそのような「窓」の集合体であると考えることもできます。

(第4段落)基準人物の目に決められた消失点は、今では、壁、天井、そして床の交差を決める線の開始点になります。利き手でないほうの手の人差し指をこの消失点にあてると、扇状の遠近法ラインの指標になります。

(第5段落)こうして、既に奥行きという幻想が表れました。しかし、背後の壁の奥行きはまだ決まっていません。奥行きを決めるときは、深くなり過ぎないように気をつけます。遠近法において奥行きをすばやく決定するためには、昔から伝わる2つのテクニックがあります。その一つはレオナルド・ダ=ヴィンチの方法、そしてもう一つはもちろん、だいたいこのへんだろう、といって決めることです。

レオナルドは、まず床または壁の四角いパネルの大きさを測り、それからこの四角の上の角から反対側の中心を通して、それが床と壁の線と交差するまで斜めの線を伸ばしました。この交差の点が次の四角の辺になります。

このプロセスを続けると、壁にはすぐに遠近法上では同じ大きさの四角が描かれ、絵の中に他の環境的な要素を描き入れることができます。

(第6段落)スタンレー・キングが開発した第三の方法は、基盤となる平面状に奥行きの深さを決定するために、算数上の比率と基準人物そのものを使います。4インチ(10センチ)高さの人物は、30フィート(約10メートル)先にいる人になります(巻末資料Dの計算を参照)。この人物の膝の高さから描かれる人物(身長は4分の3の高さ)は、40フィート(約13メートル)離れています。

第二の人物の膝の高さから描かれる人物(身長は第二の人物の4分の3の高さ)は、見る人から60フィート(約16メートル)離れています。

(第7段落)最初の2人の人物の間の距離は10フィート(40-30)、およそ3メートルです。次の2人の間の距離は20フィート(60-40)、およそ6メートルです。地面にこれらの長さを描くと、5フィートの人物の身長を基準として縦の長さを決めることができます。
f0239150_913367.jpg



f0239150_9141680.jpg

(イラスト)遠近法で奥行きの深さを決めるための方式:
A.離れたところにいる人物を置く高さを決めるため、基準人物を膝と腰で分ける。
B.正しい奥行きの深さが決定したので、他の環境的な要素を加えることができる。
C.同じ方式を使って遠近法から平面図を作ることができる。


5-1-2 絵の中で焦点を移動させる
(第1段落)デザイン対話の中では、討論の焦点が移るにつれて、絵の焦点も移ることがよくあります。グループの人たちの興味が絵の右端のほうで起こっている活動のほうに移ったのかもしれず、奥の壁の近くで起こっていることのほうが面白そうに見えたのかもしれません。消せないフェルトペンで描いていると、既に描いたものを変えることはほとんどできません。しかし、次の幾つかのペンの動きでデザインd対話を継続させることができます。

(第2段落)そのようなテクニックの一つは、絵を徐々に一点透視から二点透視に変えることです。右側で起こっている活動が話題の中心になった場合は、扇形になるように水平の線を描き直すことで絵の中の活動または焦点が右に動きます。そうすると、新しい焦点は以前の絵の平面上にはなくなり、新しい右側の部分の水平線上の点に消失します。同様に、景色は部屋の中から隣の部屋へ、あるいは隣接する外の空間へさえも移ることができます。つまり、壁を突き抜けて見ているようなものです。

こうなると絵は普通の人間の視界を越えますが、遠近法の決まりは単にデザインのアイディアを話し合う上での助けに過ぎません。要点は、絵の融通性と適応性を保つことです。できあがったときはごちゃごちゃしているかもしれませんが、デザインに関する話し合いが自然な流れに沿って続くこと、そして環境に関する情報を記録することのほうがずっと大切なのです。

(第3段落)アーティストは、絵の基準と方向性が望ましい情報を伝えられるように、常にコントロールすべきです。決して参加者が言いたいことを絵が制約することのないようにしてください。絵は単にアイディアを共有してコミュニケーションを取るための道具に過ぎないからです。

最終的な絵は、あとから報告書に入れたり展示したりするときに整えることができますが、この時点では活力のあるごちゃごちゃした様子を気にしないでください。間違った線を引いてしまったら、修正しようとして何度も引き直すのは避けます。単に間違いが目立つだけです。
f0239150_9144426.jpg

(イラスト)絵の焦点を移動させる:
このワークショップ画は、左側の会議室から始まったが、その後グループは隣接する受付部分に話題を移したため、一点透視から二点透視への移行が必要となった。また、構図の横には対象の相対的な位置づけを明らかにするためにメモを入れた平面図も描きこまれている。このような視覚的なメモは、デザインの次の段階の仕事をする人に役立つ。

[PR]
by ammolitering7 | 2013-06-21 09:15 | 「コ・デザインの手法」


<< 第8章ー1 (イラスト込み) 第6章 (イラスト込み) >>