第8章ー1 (イラスト込み)

第8章 グラフィックな語彙

1、グラフィックな語彙を広げる

(第1段落)コ・デザインのワークショップでは、アーティストはいつ何を描いてくれと言われるか分かりません。一度も見たことのないようなものでも、参加者に満足してもらうためにそれらしいものを描き出さねばなりません。グランドピアノ、帆船、サーカスの象、螺旋階段、バロック式の噴水なども、普通の住宅地の道の様子と同じくらい気楽にリクエストされます。

そのためアーティストは、常に身の回りのものに注意を払い、それをすばやくスケッチするにはどうしたらいいかと考えておく必要があります。指示に従ってどんなものでも描くというのは、アーティストにとって大変な仕事です。そのためにグラフィックな語彙を広げておくと便利です。

これは記憶から簡単に引き出せる頭の中の倉庫のようなもので、ワークショップの場でグループの人々と一緒に遠近法を使った絵を描いているときに、そこから取り出して使うことができます。

(第2段落)以下に、ワークショップで頻繁にリクエストされるためアーティストの心の中に備えておいたほうが良いものの一部を紹介します。人々、車、木々、屋外の家具、ガラス、水、様々な資材などです。

ワークショップ参加者が特定の環境的な要素をリクエストしたら、アーティストはそれをすばやくそれらしい絵にしなければなりません。これまでの経験から、ある種のスケッチ法は他のものより手早くできて、しかもそれらしく見えることが分かりました。

基本的には、簡素さが大切なので、参加者が視覚化したいと望むものを最低限の数の線で表す努力をします。もっと落ち着いて整った環境の中で一連の練習をしておくことで、他の人たちのために描くことに一層の自信が持てます。

2、人物を描く
(第1段落)前述のように、コ・デザインの絵は常に人物から始まります。そのため、アーティストはある程度の自信を持って人物をそれらしく描くことができなければなりません。絵の最初の2、3本の線は、参加者がこれからの過程に信頼を置くことができるように、いかにも自信あり気に描かなければなりません。

人物は手が込んでいる必要はありませんが、ある特徴を備えていなければなりません。例えば、フィギュアスケートをしている、自転車に乗っている、公園のベンチに座っている、カフェで食事をしているなど、グループの人々が考えている活動にいそしんでいるべきです。

このためには、絵の中で正しい比率を表すための幾つかの大切な基本ルールを初めとして、解剖学と基本的な体のプロポーションをある程度知っていることが必要です。

(第2段落)コ・デザインの絵にとって人物を描くことはとても大切なので、人間の体に関する観察をするためにスケッチすることから始めるのが良いでしょう。人物の姿を素早く捉えるためにスケッチブックを持ち歩き、グラフィックな語彙を広げ始めます。

(第3段落)最初の人物には、ごく簡素な表現が向いています。そうすれば参加者が自分の想像力で欠けている部分を補うことができるからです。コ・デザインの人物は、ほとんど漫画的ともいえる表現になります。あまり細かく注意深く描くと、絵が本来踏査すべき環境的な側面から参加者の注意をそらしてしまいます。人物は、参加者が絵の中の活動を自分の活動だと感じられるように、そして絵に比率の感覚を出すためにあります。
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(イラスト)人物の目の高さに基づいた体のプロポーション - 目の高さ、肩、ウエスト・肘、腰・手首、膝・足 - 目の高さ=頭8個分

2-1 体のプロポーション
(第1段落)人ごみをよく見ると、ある共通点があることに気づきます。それぞれの人物は部分(頭、肩、腕、手、胴回り、腰、膝、足)に分けられます。これらの各部分は、体全体に対して特定のバランスを持っています。プロポーションと呼ばれる対照の美です。

(第2段落)腰の重点が目と足の関係でどこにあるか、脚に対して膝の関節がどこにあるか、胴回りの線と、その上の肩との関係で、肘はどこにあるか、そして手首と腰の対応にも注目してください。これらの各部は、他の部分との特定の関係において位置しているため、アーティストはこれに基づいて想像し、様々な姿勢の人物を描くことができます。

2-2 頭
(第1段落)手をぐるっと回して丸や楕円を描けば、それが頭になります。髪の生え際のラインは、頭が上を向いているか下を向いているかを示します。頭が小さくなってしまったら、頭の線より上に髪を加えて修正します。頭が大きすぎるなら、生え際から内側に髪を加えて修正します。
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(イラスト)頭を描く:
A.髪の生え際の線と目は頭の向きを示す。
B.頭が小さすぎるなら、上に髪を加える。
C.頭が大きすぎるなら、生え際から内側に髪を加える。

(第2段落)男女の特徴の違いは明らかです。男性は通常、女性より丸くて顎が角ばった頭をしています。首は太くて、筋肉がついています。一方、女性の頭は普通、もっと楕円または卵型で、顎は尖り、細くて長い首をしています。こうした細かな違いは、絵の中で人物の特徴をはっきりさせます。

首を描くときは、人間はヘビでもコウノトリでもないことを覚えておきましょう。首を縦に太くまっすぐ描いたり、極端に細く描いたりするのは避けます。首が肩の上に繋がる緩やかな曲線を観察し、これを絵の中に描き出します。
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(イラスト)頭の特徴:
A.男性と女性の顔の違い・・・男性(角ばった顎と太い首)、女性(尖った顎と細い首)。
B.首の緩やかな曲線を観察する。コウノトリ、太すぎる。ヘビ、細すぎる。人間。


(第3段落)それらしく見える人物を描く鍵は、頭と首の関係にあります。頭は首の真上にあるのではなく、少し前に傾いています。肩の上の普通の状態の頭を見ると、頭の後ろはからだの中心とほぼ一致することが明らかになります。

高齢者の場合、頭は胸のほうに下がっていて、体の中心からずれています。顎の下の線は首のうなじより下です。また、首と肩が交わるところでは、首はいつも後ろより前が下がっています。

(第4段落)人物を描くときには、顔の主なパーツの大体の位置を定めるプロポーションのシステムが役立ちます。このシステムでは、顔をまず目の位置で半分にし、それから口の場所を決めるために4分の1にします。耳の上端はまぶたの端と同じ線上にあり、顎の下は首と背骨が交わる点と同じ線上にあります。
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(イラスト)頭と首の関係:
A.大人の姿勢と老人の前かがみな姿勢。
B.顎、首、肩の基本的な関係。
C.顔の主な部分を位置づける。

顎の下端は首のうなじより低い。
首の付け根は後ろより前が低い。
耳の上端は目と同じ高さ。
顎の下端は首の付け根と同じ高さ。


2-3 腕と手
(第1段落)腕もまた簡略化されます。この描き方を身につけると、輪郭の基本的な曲線は2本のすばやい線で描くことができます。普通は衣服を着ているため、腕は手ほど問題ではありません。むき出しの腕のしわを描くより衣服のしわを描くほうが簡単だからです。

(第2段落)手は人物の小さな部分ではありますが、活動と雰囲気を表すために大切です。様々なポーズの手を詳しく観察することは、うまく描く上で必要な準備です。手は最も単純な形、つまり指無しの手袋の形にまで単純化し、3つの部分で表します。手の甲が一つ、指の曲がった部分が二つです。
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(イラスト)腕と手:
A.腕は2、3本の滑らかな線で表す。
B.手は最も単純な指無しの手袋の形で表す。


2-4 脚と足
足を描くときも同じように、横からは三角、前からは半円、上からは四角に単純化します。一番難しいのは、特に動いている人物において、足と脚の正しいバランスを取ることです。実際の人物を見て、これらの関係を観察します。
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(イラスト)脚と足:
A.正しく描かれた脚は絵に生命感と動きを与える。
B.足は基本的な三角に単純化される。


2-5 衣服
色付きのワークショップ画の中では、衣服のバラエティーは景色に面白さを与えます。ところどころチェックや縞模様のシャツを入れても良いでしょう。男性と女性は衣服でも区別できます。また、衣服で人物画の中にリズムを生み出すこともできます。

肩、肘、膝のしわは、アーティストの手と目にとってちょっとした休憩になります。これを描きながら絵全体をチェックして、次の筆遣いの準備をすることができます。

2-6 曲がった姿勢の人物、踊っている人物
ここに挙げたイラストは、体の分割点を見つけるために使う方法を表しています。まず、体を腰で二つに分けます。上の半分は体全体の6分の1に、下半分は4分の1に分けます。この分割は、人物がどんな姿勢で描かれても同じであることに注目してください。この知識があると、どんなポーズの人物でも描くことができます。

プロポーションが正しいと、体は自由に動いているように見えます。紐のついた操り人形を思い浮かべてみてください。すべての部分の動きが生命感と動きをもたらします。
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(イラスト)曲がった姿勢の人物と踊っている人物:
A~D.体の姿勢がどう変わっても、基本的なプロポーションは一定である。


2-7 胴体の線
胴体は、歩くとき、駆け足をするとき、あるいは走るときに体のバランスを維持する人体の柱です。それはいつも均衡の中心であり、いつも私たちの体の重さを下へ、足のほうへ、体の中心を通る目に見えない力の線を通って配分します。もしも力の線がこの中心線を通って下向きに走っていないなら、私たちの体は均衡を失い、ぐらつきます。

たとえば走っている人は、もしもこの中心線が上体と足を正しいバランスに維持しないなら、前に倒れます。同様に、活動にいそしむ人物を描くときも、アーティストは人物がバランスの取れた姿になるように想像上の中心線を考えなければなりません。
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(イラスト)
胴体の線は、人物がいつもバランスの取れた姿となるよう、想像上の中心線に基づいて配分される。


2-8 人ごみのある景色
(第1段落)人ごみのある景色は、ワークショップの絵の中で頻繁に必要となります。歩行者が集まる広場、あるいは公会堂などは、たくさんの人々がいる様子ですばやく空白を埋めなければなりません。コツは、前景に細かく描いた人物を2~3人置き、背後の人々を頭と体と足のもつれ合ったような塊として表すことです。前の人物には色づけし、背景の人物はところどころ色づけして活気と動きを出します。
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(イラスト)人ごみのある景色を描く:
A.背景の人々の前で前景の人々が際立つ。
B.人物の配置は空間を決定する。


(第2段落)複数の人物の大きさの関係は絵に奥行きを与え、空間を決定します。人物の目の高さを観察すると、人物を不自然に高い位置に配置するというよくある間違いを避けることができます。遠くのほうの人物には、細部はほとんど必要ありません。
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(イラスト)人間の活動の平面を重ねて作られた絵:
複数の人物の大きさの間の関係が奥行きを出す


2-9 人物を遠近をつけて描く
(第1段落)高さの変化は、体のプロポーションに遠近をつけて描くことで示されます。バルコニーなどの高いところを見上げると、床の縁が人物の一部を隠しています。隠された部分の大きさが人物の相対的な距離を示します。横を向いている人物の肩の線と頭の位置に注目してください。
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(イラスト)上のほうにいる人物を見ると、下半身の一部が視界から消えている。

(第2段落)下のほうにいる人々は、肩の線、頭と足の位置、そして人物の配置によって特徴づけられます。人物全体が短くなり、上半身は下半身より大きく見えます。頭はほとんど髪だけに見え、肩が強調されます。高い位置からはより多くのものが見えるので、視野の中の物体、車、人々のすべてを同じ地面という平面状に配置するように注意が必要です。
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(イラスト)風景を見下ろす:
体のプロポーションに遠近が出て、視界は大きく広がる。


2-10 子供
(第1段落)大きな頭、大きな腹部、そして短い腕と脚が子供の体の特徴です。眠っていなければすばしっこく動き回っているので、スケッチして観察するには難しい対象です。ある特定の姿勢を観察することに集中し、彼らがその姿勢を取ったら素早くスケッチします。

(第2段落)この同じテクニックは、動いている人物の観察にもあてはまります。一度に一つの動きを学び、人物が再びその姿勢を取るまで待ちます。体のバランスと、足の位置と胴体の中心線に注目します。
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(イラスト)子供:
A.子供の頭は大人の頭と同じくらいの大きさで、腹部も大きい。腕と脚は短い。
B.動いている人物は、バランスが取れて見えるように均衡の線を維持しなければならない。


2-11 影
影は、明るい日光の印象を与えます。絵を生き生きとさせたり歩行の動きを明らかにしたりするのも、非常に有効です。帽子の下の影になった顔、コートやスカートの裾の下の影になった脚は、人物に実体を与えます。地面に落ちた影は、床の平面の形状を明らかにします。
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(イラスト)影の使い方:
A.影を使うときに明暗をはっきりさせると、人物の形が定まる。
B.影は表面の様子を表したり、隙間のあるところとないところを明確にさせたりするのに使われる。

3、植生
おそらく、ワークショップでコ・デザインのアーティストが頼まれることの一番多い環境要素の一つは植生でしょう。樫の木が並んだ住宅街の道を描くことから、中庭の様子、あるいは窓から遠くに見える田舎の景色まで、いろいろあります。植生は、それらしく見える絵を描くのに大切な役割を果たします。

アーティストは、植生を描くように言われると萎縮しがちなものです。木に葉っぱを一枚一枚描くのは時間がかかって大変な作業だと思うからです。実際には、植生は難しそうに見えて簡単で、むしろ楽しいものです!
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(イラスト)葉の描き方:
A.個々の筆遣い。
B.まとまり(グプティルの技法に基づく。注32)。

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(イラスト)木の平面:
A.木の平面を3つまで減らす。
B.3つの平面を葉の筆遣いで融合させる。(グプティルの技法に基づく)


3-1 木の芸術的な解剖学

(第1段落)アーティストの最初の課題は、植生の解剖学を知ることです。周りの木をよく見て、それがどういうふうに地面から生えているか、どういうふうに幹が細い枝に分かれているか、どういうふうに枝が葉の茂みを支えているかを観察します。

自然なのは、木が成長していくかのように描いていくことです。地面から上に向かい、骨格にあたる枝の構造を作り、それを葉で覆います。

(第2段落)個々の葉はもっと大きな葉の塊を構成します。個々の葉を描くより、大きな塊を描くほうがもっと簡単で効率的です。特定の筆遣いをまとめることで、量を思わせるように描くことができます。様々な種類の木々を描くことができるように、筆遣いを練習してください。

上向き、下向き、左、右、その組み合わせ、尖っている、放射状、三角、そして繋がった三角という種類があります。3と5のリズムを交互に使う古代中国の描画テクニックは、葉を描くときの単調さを和らげてくれます。

(第3段落)木や潅木の平面を3つまで減らします。日の当たっている部分、中間部分、影の部分です。影は筆遣いを詰めて描くことで作ります。影はそれぞれの木の性質に応じて加えます。できあがった木の姿は、日の当たるところと影の部分のはっきりした対比が中間部分を加えることで和らげられています。

(第4段落)本物の木には枯れた枝が2、3本あったり、茂り方が均等でなかったり、葉が薄くて枝が見えているところがあったりするのを覚えておきましょう。そのような細部を加えると、絵がさらに本物らしくなります。風に吹かれているように葉を一定方向に描くと、動きのある効果が得られます。ところどころ舞い落ちる葉があるのもいいでしょう。

3-2 中くらいの距離にある木々

中くらいの距離にある木々は、塊として描くのが一番簡単です。例えば、ポプラ、樫、糸杉、モミ、柳など、その地域で一般的な木々の基本的な樹形を学んでおきます。中くらいの距離の景色は最も描きにくいものですが、木やフェンス、建物、車などがあると描きやすくなります。そうした要素は奥行きを制限し、景色を狭め、描画が必要な部分を減らします。

現実の木を見てスケッチし、それを簡単な筆遣いで表そうとするのは良い練習になります。中くらいの距離にある木の幹が落とす影は、地面の様子を表すのに効果的です。
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(イラスト)中くらいの距離にある木々を塊として描く:
A.見慣れた木々の形・・・柳、樫、ポプラ、糸杉、モミ。
B.樹形。

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(イラスト)針葉樹:
A.現地で詳しくスケッチしたもの。
B.明暗をはっきりさせたもの。
C.ワークショップで描く単純化した木。

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(イラスト)落葉樹:
A.現地で詳しくスケッチしたもの。
B.明暗をはっきりさせたもの。
C.ワークショップで描く単純化した木。

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(イラスト)木々が落とす影は地面の平面の性質を表すのに効果的。

3-3 遠くにある木々
遠くにある木々は、植生の種類を示す輪郭を持ったグラフィックなパターン、またはトーンとして描くのが最も簡単です。針葉樹の尖った枝は落葉性の低木の丸みのある塊とは異なります。木々のトーンは遠くに退くにつれて薄くなり、奥行きの印象を強めます。背景の植生のトーンは建物などの前景にある物体の縁取りを定めるのにも使われます。
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(イラスト)
遠くの植生は連続するグラフィックパターンのトーンとして描かれる。

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by ammolitering7 | 2013-06-21 13:34 | 「コ・デザインの手法」


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