付録B (イラスト込み)

付録 B ファシリテーションの技術を学ぶ

1、建築ファシリテーションにおける教育コース:コウィチャン湖のケース

このケーススタディーでは、人々と一緒にデザインする技術の概要と経緯を描写しています。本書では建築教育の場でこのような技術を教えることが緊急に必要であるということを述べていますが、世界各地からも同様の声が上がっています。

1-1 概要
(第1段落)1984年夏の3週間、スタンレー・キングが教鞭を取っていたビクトリア大学3年生の環境研究学部で、建築デザインファシリテーション調査が行われました。この調査で建築家役を務めたのはメリンダ・コンレーです。

(第2段落)学生および職員およそ25名をユーザー・クライアントとするこの建築調査の目的は、新しく作られる環境研究センターのためにデザインを作成することにありました。また、作成されたデザイン・スケッチはユーザー・クライアントから完全な認可を得る必要がありました。

(第3段落)環境研究学部では2つの目標を立てていました。まず、市民参加に重点を置いて、実際に意思決定に関わる人々と話し合うこと、そして第2は、環境に変更を加えるためのデータを得るにあたって、ユーザーと一緒に実践的な働きをすることです。

1-2 現地
現地であるキャンパス外の調査エリアは、バンクーバー島のコウィチャン湖の北の湖岸にある開墾地でした。鬱蒼とした原生林に囲まれており、学生と職員のための滞在用テント、新しいキッチン、食堂、そして管理人一家のための築100年のログハウスがありました。

1-3 調査の目的
調査は、次のような技術を発達させることを目的としていました。

(1)ユーザー・クライアントが望む活動や環境を明確にするためにコミュニケーションを取る。
(2)ユーザー・クライアントのニーズに応える上でのデザインの可能性を知る。
(3)次の項目を含むデザインプロセスのすべての段階を視覚化する。
  *様々な機能関係
  *現地と建物が相互に与える影響
  *外と内を繋ぐスペース
  *光が表面に与える効果、照明と音響の処置、デザインのプロポーションとリズム
  *ユーザー・クライアントの要求と期待を満足させるスケッチ・デザインを作る技術

1-4 デザインの流れ
デザインは以下のような流れで行われました。
  *デザイン・ワークショップ
  *特別な特徴の考慮
  *優先する特徴の視覚化
  *現地の再訪と必要条件の再調査
  *ユーザー・クライアントからの継続的なガイダンス
  *さらに詳細な現地調査
  *3つのデザイン案の評価
  *最終的なコンセプトプランの作成
  *プレゼンテーション

1-5 デザイン・ワークショップ
環境学部の学生25名とコ・デザインのスタッフ3名は、バンに分乗してコウィチャン湖を訪れました。週末の2日間で行われたワークショップでは、皆が一緒に働き、料理をし、共に食事をし、幾つかの大きなテントで一緒に寝泊りしました。夜は皆で食事をしながら、一日の出来事や、壁にずらりと貼り出されたワークショップ画について話しました。

1-6 個々の活動を考慮する

ワークショップ二日目の日曜日には、前日に出されたたくさんのアイディアの中の特別な特徴について、さらに詳しく考えました。メリンダは、アイディアの相互関係をさらに詳しく調べることができるようにバブル図の理論を紹介し、それぞれのバブルは食事、屋内でのレクレーション、学習など特定の活動を表しており、どの活動がどれと隣り合わせに位置するべきかということ、そしてバブル図は複数の活動の間の循環を理解するのに役立つということを説明しました。(注60)。

5~7人ずつの4つのグループに別れ、学生たちは自分たちでバブル図を作りました。土曜日のワークショップで作ったタイムラインを参照しながら、彼らは活動を特定のカテゴリー毎にまとめました。それぞれのグループが3つのバブル図を作り、合計12個の活動相関図ができあがりました。また、メリンダは現地で何時間もスケッチをして、後で視覚化する段階に備えました。

1-7 現地プランニングと活動環境の描写

ビクトリア大学に戻ったあとは、現地に特定の活動と建物を位置づけるための議論が続きました。ユーザー・クライアントである学生たちは一人一人5ページまでのエッセイを書いて、自分が選んだ3つの活動(料理、社交、講義など)のために思い描いた理想的な環境を詳しく説明しました。

学生たちは、自分の望む環境を明らかにするのにクリストファー・アレキサンダーの「パターン・ランゲージ」が非常に役立った、と感想を述べました(注61)。

エッセイには、視覚、音、匂い、味および触覚という知覚的な感覚が詳しく記述され、さらにそれぞれの活動の雰囲気、循環、人数、時刻が描写されました。

1-8 優先する特徴の視覚化
(第1段落)メリンダはワークショップの翌週の火曜日の夜と水曜日を使って学生たちのエッセイを調べ、活動をそれに必要な環境ごとに分類しました。

(第2段落)それから4日間(木曜日から土曜日)かけて、彼女は学生たちが描写したものを知覚図、見取り図、そして断面図の形で視覚化しました。土曜日から次の火曜日にかけては、光と音響に焦点を当てた調査を行いました。それぞれの調査シートは同じ活動をテーマとした3つの描写エッセイをまとめたもので、それぞれの特徴を総合して視覚化していました。

(第3段落)例えば、ユーザー・クライアントたちは、環境センターでは到着、駐車および入り口エリアにロビーがあること、そしてそれがバックパックや大きな荷物を持った人たち30~35人を収容できる大きさであることを特に指定していました。また、ロビーはドアの両側に大きな窓があって、天井には天窓もあって明るいこと、そして窓辺にベンチがあることも指定していました。

入り口そのものへのアクセスは、建物の長さ全体に延びる木のポーチに繋がる3段の階段を通って入れること、そして建物は重厚で荒削りな材木でできていて、手すりなどは錬鉄でできていることも指定されました。

1-9 コンセプトプラン
ワークショップの翌々週の火曜日、メリンダは学生たちが描いたすべてのバブル図を調べ、それらを統合して3つの現地レイアウト案を作りました。また、バブル図と活動のタイム・グラフの中に、情報の相互関係を表す図も描きました。

その夜、彼女はさらなる調査のために現地に戻り、ビクトリア大学の地図作成施設から得た現地データを確認しました。

1-10 コンセプトプランの評価
(第1段落)翌水曜日の夜、ユーザー・クライアントたちはワークショップで出されたアイディアを再検討するために再度現地を訪れました。そして、コウィチャン湖まで分乗していったバンをイーゼルとして使って、彼らが望んだものをそのままに反映する9枚の調査シートを展示しました。

ユーザー・クライアントたちはワークショップの絵と調査シートを見て、自分たちが本当に必要としているもの、本当に望んでいるものを再評価し始めました。そして彼らは、自分たちのアイディアは大仰すぎて、非現実的で、開墾地の性質を駄目にするということに気づきました。

(第2段落)彼らは、活動と建物がどんなふうに縮小できるか、そして木々の間に隠れるようにできるかと想像しながら、再び現地を歩きました。それぞれの活動のために別々の建物を建てるのではなく、多目的室にそれらを重複させることができるかもしれません。

互いにコミュニケーションを取り、自分たちのアイディアの結果を視覚化する機会を得たことで、ユーザー・クライアントたちは自らこの結論に至ることができました。彼らは、デザインをもっと小規模なスケールに抑えることが必要であること、二度目の現地訪問は非常に重要であること、そして建築家は常にユーザー・クライアントから継続的なガイダンスを得なければならないことを、はっきりと理解しました。

1-11 必要条件のまとめ
翌日の木曜日、メリンダは大学に戻って教室にすべての絵を展示しました。ユーザー・クライアントたちは、自分たちの過去のコメントを見直し、さらに変更を加え続けました。絵は金曜日の午前中まで展示して、学生たちが来てコメントを書き込み続けられるようにしました。その後、すべての書き込みが終わってから、デザインの必要条件が要約されました。

1-12 現地と各種規定の更なる調査

それから3日間(土曜日~月曜日)、メリンダは現地図、敷地図、等高線図、そしてビクトリア大学の地図作成部から提供された野生生物とレクレーション使用地図を研究しました。その後、地形、植生、気象条件、循環、ゾーニング、視界、周辺の建物、車両の乗り入れに関する現地図を描きました。また、現地に該当する基準や規定などの必要条件を見直しました。

1-13 3つのデザイン案
デザインエクササイズ開始から2週間たった月曜日には、メリンダは環境センターの空間整理のための3つのコンセプトデザイン案を提示しました。各部分がグループ化された建物、複数の独立した部分がつながった建物、各部分が継続した壁に囲まれた建物の3つです。議論会を開いて話し合った結果、部分が壁で繋がった案が選ばれました。この案はユーザーたちが表明していた多くの必要条件に適っていました。

外へ行かずにある場所から別の場所へ行けること、一つの中心的な集会場があって、そこから他の部分に分かれていること、すべての活動が互いに近くにあること、内部にバリエーションがあって、一つの屋根の下にすべて含まれる場所であること、などです。この合意を元に、メリンダはデザインの最後の段階に進むことができました。

1-14 パーツのデザイン

その次の月曜日に、建物の各パーツのカラー画が提示されました。これはユーザー・クライアントの要求、現地データ、および規定という必要条件をまとめたものとなっており、よく似た活動ごとに割り当てられたスペースの様子を視覚化していました。

例えば、玄関ホールを表したパーツは25名を収容するのに十分な大きさがあり、玄関の外壁の窓辺にはベンチが備え付けてありました。12人(6人x2グループ)が使える大きさの台所もあり、別の絵には食事や社交やレクレーションのための大きなオープンスペースもありました。デザインテーマは、森の温かみと調和した重厚な木材の使用を強調していました。

絵には、バブル図とマトリックスで表された機能的な関係、および、景観を保つ必要があること、雨に濡れないように大きく張り出したポーチがあることなど、現地の重要な要素に関するユーザー・クライアントの意見が含まれていました。パーツとテーマに関する議論もさらに続けられ、やがて最終的な合意に達しました。

1-15 直感的なデザインプロセス
(第1段落)その後の3日間(火曜日から木曜日)、メリンダはスタジオにこもって、最終的なデザインの視覚化という直感的でクリエイティブなプロセスに入りました。技術的および審美的な各パーツを全体的なコンセプトにまとめ、そして建物全体の概略を視覚化する作業です。

デザインは、ワークショップで得られたイメージのレプリカを作ろうとするのではなく、様々な活動と環境的な性質のエッセンスを形にすることを目的としました。

(第2段落)この最終的な段階では、建築案、空間的な必要条件、周囲の環境との継続性、表面に当たる光の入り方、黄金率、音響の扱いなどが考慮されました。最終デザイン案には、小さな窓際のベンチ、壁のくぼみ、細部の要素の結合部分なども含まれました。

1-16 最終的なコンセプトの提示
(第1段落)翌金曜日の午前10時半、3週間に渡った準備のあとで、メリンダはユーザー・クライアントに環境センターのための最終的なデザインを提示しました。併せて、調査プログラムの間にできたすべての絵を展示しました。最初のワークショップの絵、パーツの絵、現地調査図、現地見取り図、内装と外装の遠近画、敷地図、断面図、立面図、そしてその他多数の細かい絵などすべてです。

(第2段落)メリンダは環境センターを「週末あるいは一週間のセミナーのために学生たちを受け入れる活動ディスカッション施設」と描写しました。訪問者は大きな張り出し屋根の下にバンで乗り入れることができ、悪天候から守られます。主な建物では、社交的な活動など、複数の活動ができます。間取りと内装は、アキシアルなロマネスク様式に倣いました。

(第3段落)ユーザー・クライアントたちは絵の周りに集まってデザインの様々な要素を指し、自分たちのアイディアが非常に良く組み合わされたことに満足感を表明しました。彼らは新しいセンターのビジョンを見て高揚した様子で、施設を利用しているところを具体的に想像しました。

(第4段落)ユーザー・クライアントたちはデザインを完全に受け入れました。否定的な反応は全くありませんでした。コミュニティーデザイン参加エクササイズは、ユーザー・クライアントのビジョンを忠実に取り込んだデザインに繋がりました。

1-17 評価
(第1段落)メリンダは後に、今回の調査について、「アイディアのイメージと各パーツのデザインからコンセプトデザインまで、一連の流れがデザインをすばやく生み出すことに貢献した」と語りました。この流れに添うことで、参加者たちは簡単にデザインプロセスに参加して、その発展に協力することができました。

(第2段落)イメージを使うことで、ユーザー・クライアントたちは自分たちの最初のアイディアは大仰過ぎて現地を駄目にするということに自ら気づきました。その結果、彼らは最終的なデザインの必要条件に関して簡単に合意に達しました。

ユーザー・クライアントたちが完成したデザインを見たときの興奮した反応は、メリンダにとって、努力の甲斐があったと感じるに十分なものでした。

(第3段落)3週間という期間はメリンダが必要な仕事を完成させるには不十分でした。この調査に実際に必要なのは、大学の一学期にあたる4ヶ月です。スタンレー・キングも、コミュニティーデザインプロセス全体をカバーするには3週間は短すぎるとコメントしました。

(第4段落)スタンレーは、メリンダの優れた描画技術が今回のコースの成功の鍵になったと強調しました。別の建築学科の学生もメリンダと一緒に始めましたが、視覚化のタスクが手に負えず、落伍しました。

(第5段落)現在の建築教育では、学生が多数のユーザー・クライアントとデザインコミュニケーションを取るための技術を身につけられるような機会は滅多にありません。

(第6段落)コースが終了したあと、メリンダのデザインはカナダ王立建築協会カルガリー支部の指導教員と検査官に提出されました。彼らはデザインと絵の品質および繊細さに感動して、建設を認可しました。また、メリンダの絵は後に、同支部が全国誌に掲載する講義要目の代表例として選ばれました。
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(イラスト)コウィチャン湖環境センターのためのコンセプト画:
(A)現地見取り図。
(B)間取り図。
(C)断面図。
(D)ダイニングホールの内装遠近画。
(E)立面図。
(F)ソーシャルセミナー室の内装遠近画。

(クレジット)メリンダ・コンレーおよびRAIC講義要目概観

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by ammolitering7 | 2013-06-22 08:19 | 「コ・デザインの手法」


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