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第8章ー1 (イラスト込み)

第8章 グラフィックな語彙

1、グラフィックな語彙を広げる

(第1段落)コ・デザインのワークショップでは、アーティストはいつ何を描いてくれと言われるか分かりません。一度も見たことのないようなものでも、参加者に満足してもらうためにそれらしいものを描き出さねばなりません。グランドピアノ、帆船、サーカスの象、螺旋階段、バロック式の噴水なども、普通の住宅地の道の様子と同じくらい気楽にリクエストされます。

そのためアーティストは、常に身の回りのものに注意を払い、それをすばやくスケッチするにはどうしたらいいかと考えておく必要があります。指示に従ってどんなものでも描くというのは、アーティストにとって大変な仕事です。そのためにグラフィックな語彙を広げておくと便利です。

これは記憶から簡単に引き出せる頭の中の倉庫のようなもので、ワークショップの場でグループの人々と一緒に遠近法を使った絵を描いているときに、そこから取り出して使うことができます。

(第2段落)以下に、ワークショップで頻繁にリクエストされるためアーティストの心の中に備えておいたほうが良いものの一部を紹介します。人々、車、木々、屋外の家具、ガラス、水、様々な資材などです。

ワークショップ参加者が特定の環境的な要素をリクエストしたら、アーティストはそれをすばやくそれらしい絵にしなければなりません。これまでの経験から、ある種のスケッチ法は他のものより手早くできて、しかもそれらしく見えることが分かりました。

基本的には、簡素さが大切なので、参加者が視覚化したいと望むものを最低限の数の線で表す努力をします。もっと落ち着いて整った環境の中で一連の練習をしておくことで、他の人たちのために描くことに一層の自信が持てます。

2、人物を描く
(第1段落)前述のように、コ・デザインの絵は常に人物から始まります。そのため、アーティストはある程度の自信を持って人物をそれらしく描くことができなければなりません。絵の最初の2、3本の線は、参加者がこれからの過程に信頼を置くことができるように、いかにも自信あり気に描かなければなりません。

人物は手が込んでいる必要はありませんが、ある特徴を備えていなければなりません。例えば、フィギュアスケートをしている、自転車に乗っている、公園のベンチに座っている、カフェで食事をしているなど、グループの人々が考えている活動にいそしんでいるべきです。

このためには、絵の中で正しい比率を表すための幾つかの大切な基本ルールを初めとして、解剖学と基本的な体のプロポーションをある程度知っていることが必要です。

(第2段落)コ・デザインの絵にとって人物を描くことはとても大切なので、人間の体に関する観察をするためにスケッチすることから始めるのが良いでしょう。人物の姿を素早く捉えるためにスケッチブックを持ち歩き、グラフィックな語彙を広げ始めます。

(第3段落)最初の人物には、ごく簡素な表現が向いています。そうすれば参加者が自分の想像力で欠けている部分を補うことができるからです。コ・デザインの人物は、ほとんど漫画的ともいえる表現になります。あまり細かく注意深く描くと、絵が本来踏査すべき環境的な側面から参加者の注意をそらしてしまいます。人物は、参加者が絵の中の活動を自分の活動だと感じられるように、そして絵に比率の感覚を出すためにあります。
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(イラスト)人物の目の高さに基づいた体のプロポーション - 目の高さ、肩、ウエスト・肘、腰・手首、膝・足 - 目の高さ=頭8個分

2-1 体のプロポーション
(第1段落)人ごみをよく見ると、ある共通点があることに気づきます。それぞれの人物は部分(頭、肩、腕、手、胴回り、腰、膝、足)に分けられます。これらの各部分は、体全体に対して特定のバランスを持っています。プロポーションと呼ばれる対照の美です。

(第2段落)腰の重点が目と足の関係でどこにあるか、脚に対して膝の関節がどこにあるか、胴回りの線と、その上の肩との関係で、肘はどこにあるか、そして手首と腰の対応にも注目してください。これらの各部は、他の部分との特定の関係において位置しているため、アーティストはこれに基づいて想像し、様々な姿勢の人物を描くことができます。

2-2 頭
(第1段落)手をぐるっと回して丸や楕円を描けば、それが頭になります。髪の生え際のラインは、頭が上を向いているか下を向いているかを示します。頭が小さくなってしまったら、頭の線より上に髪を加えて修正します。頭が大きすぎるなら、生え際から内側に髪を加えて修正します。
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(イラスト)頭を描く:
A.髪の生え際の線と目は頭の向きを示す。
B.頭が小さすぎるなら、上に髪を加える。
C.頭が大きすぎるなら、生え際から内側に髪を加える。

(第2段落)男女の特徴の違いは明らかです。男性は通常、女性より丸くて顎が角ばった頭をしています。首は太くて、筋肉がついています。一方、女性の頭は普通、もっと楕円または卵型で、顎は尖り、細くて長い首をしています。こうした細かな違いは、絵の中で人物の特徴をはっきりさせます。

首を描くときは、人間はヘビでもコウノトリでもないことを覚えておきましょう。首を縦に太くまっすぐ描いたり、極端に細く描いたりするのは避けます。首が肩の上に繋がる緩やかな曲線を観察し、これを絵の中に描き出します。
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(イラスト)頭の特徴:
A.男性と女性の顔の違い・・・男性(角ばった顎と太い首)、女性(尖った顎と細い首)。
B.首の緩やかな曲線を観察する。コウノトリ、太すぎる。ヘビ、細すぎる。人間。


(第3段落)それらしく見える人物を描く鍵は、頭と首の関係にあります。頭は首の真上にあるのではなく、少し前に傾いています。肩の上の普通の状態の頭を見ると、頭の後ろはからだの中心とほぼ一致することが明らかになります。

高齢者の場合、頭は胸のほうに下がっていて、体の中心からずれています。顎の下の線は首のうなじより下です。また、首と肩が交わるところでは、首はいつも後ろより前が下がっています。

(第4段落)人物を描くときには、顔の主なパーツの大体の位置を定めるプロポーションのシステムが役立ちます。このシステムでは、顔をまず目の位置で半分にし、それから口の場所を決めるために4分の1にします。耳の上端はまぶたの端と同じ線上にあり、顎の下は首と背骨が交わる点と同じ線上にあります。
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(イラスト)頭と首の関係:
A.大人の姿勢と老人の前かがみな姿勢。
B.顎、首、肩の基本的な関係。
C.顔の主な部分を位置づける。

顎の下端は首のうなじより低い。
首の付け根は後ろより前が低い。
耳の上端は目と同じ高さ。
顎の下端は首の付け根と同じ高さ。


2-3 腕と手
(第1段落)腕もまた簡略化されます。この描き方を身につけると、輪郭の基本的な曲線は2本のすばやい線で描くことができます。普通は衣服を着ているため、腕は手ほど問題ではありません。むき出しの腕のしわを描くより衣服のしわを描くほうが簡単だからです。

(第2段落)手は人物の小さな部分ではありますが、活動と雰囲気を表すために大切です。様々なポーズの手を詳しく観察することは、うまく描く上で必要な準備です。手は最も単純な形、つまり指無しの手袋の形にまで単純化し、3つの部分で表します。手の甲が一つ、指の曲がった部分が二つです。
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(イラスト)腕と手:
A.腕は2、3本の滑らかな線で表す。
B.手は最も単純な指無しの手袋の形で表す。


2-4 脚と足
足を描くときも同じように、横からは三角、前からは半円、上からは四角に単純化します。一番難しいのは、特に動いている人物において、足と脚の正しいバランスを取ることです。実際の人物を見て、これらの関係を観察します。
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(イラスト)脚と足:
A.正しく描かれた脚は絵に生命感と動きを与える。
B.足は基本的な三角に単純化される。


2-5 衣服
色付きのワークショップ画の中では、衣服のバラエティーは景色に面白さを与えます。ところどころチェックや縞模様のシャツを入れても良いでしょう。男性と女性は衣服でも区別できます。また、衣服で人物画の中にリズムを生み出すこともできます。

肩、肘、膝のしわは、アーティストの手と目にとってちょっとした休憩になります。これを描きながら絵全体をチェックして、次の筆遣いの準備をすることができます。

2-6 曲がった姿勢の人物、踊っている人物
ここに挙げたイラストは、体の分割点を見つけるために使う方法を表しています。まず、体を腰で二つに分けます。上の半分は体全体の6分の1に、下半分は4分の1に分けます。この分割は、人物がどんな姿勢で描かれても同じであることに注目してください。この知識があると、どんなポーズの人物でも描くことができます。

プロポーションが正しいと、体は自由に動いているように見えます。紐のついた操り人形を思い浮かべてみてください。すべての部分の動きが生命感と動きをもたらします。
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(イラスト)曲がった姿勢の人物と踊っている人物:
A~D.体の姿勢がどう変わっても、基本的なプロポーションは一定である。


2-7 胴体の線
胴体は、歩くとき、駆け足をするとき、あるいは走るときに体のバランスを維持する人体の柱です。それはいつも均衡の中心であり、いつも私たちの体の重さを下へ、足のほうへ、体の中心を通る目に見えない力の線を通って配分します。もしも力の線がこの中心線を通って下向きに走っていないなら、私たちの体は均衡を失い、ぐらつきます。

たとえば走っている人は、もしもこの中心線が上体と足を正しいバランスに維持しないなら、前に倒れます。同様に、活動にいそしむ人物を描くときも、アーティストは人物がバランスの取れた姿になるように想像上の中心線を考えなければなりません。
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(イラスト)
胴体の線は、人物がいつもバランスの取れた姿となるよう、想像上の中心線に基づいて配分される。


2-8 人ごみのある景色
(第1段落)人ごみのある景色は、ワークショップの絵の中で頻繁に必要となります。歩行者が集まる広場、あるいは公会堂などは、たくさんの人々がいる様子ですばやく空白を埋めなければなりません。コツは、前景に細かく描いた人物を2~3人置き、背後の人々を頭と体と足のもつれ合ったような塊として表すことです。前の人物には色づけし、背景の人物はところどころ色づけして活気と動きを出します。
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(イラスト)人ごみのある景色を描く:
A.背景の人々の前で前景の人々が際立つ。
B.人物の配置は空間を決定する。


(第2段落)複数の人物の大きさの関係は絵に奥行きを与え、空間を決定します。人物の目の高さを観察すると、人物を不自然に高い位置に配置するというよくある間違いを避けることができます。遠くのほうの人物には、細部はほとんど必要ありません。
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(イラスト)人間の活動の平面を重ねて作られた絵:
複数の人物の大きさの間の関係が奥行きを出す


2-9 人物を遠近をつけて描く
(第1段落)高さの変化は、体のプロポーションに遠近をつけて描くことで示されます。バルコニーなどの高いところを見上げると、床の縁が人物の一部を隠しています。隠された部分の大きさが人物の相対的な距離を示します。横を向いている人物の肩の線と頭の位置に注目してください。
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(イラスト)上のほうにいる人物を見ると、下半身の一部が視界から消えている。

(第2段落)下のほうにいる人々は、肩の線、頭と足の位置、そして人物の配置によって特徴づけられます。人物全体が短くなり、上半身は下半身より大きく見えます。頭はほとんど髪だけに見え、肩が強調されます。高い位置からはより多くのものが見えるので、視野の中の物体、車、人々のすべてを同じ地面という平面状に配置するように注意が必要です。
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(イラスト)風景を見下ろす:
体のプロポーションに遠近が出て、視界は大きく広がる。


2-10 子供
(第1段落)大きな頭、大きな腹部、そして短い腕と脚が子供の体の特徴です。眠っていなければすばしっこく動き回っているので、スケッチして観察するには難しい対象です。ある特定の姿勢を観察することに集中し、彼らがその姿勢を取ったら素早くスケッチします。

(第2段落)この同じテクニックは、動いている人物の観察にもあてはまります。一度に一つの動きを学び、人物が再びその姿勢を取るまで待ちます。体のバランスと、足の位置と胴体の中心線に注目します。
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(イラスト)子供:
A.子供の頭は大人の頭と同じくらいの大きさで、腹部も大きい。腕と脚は短い。
B.動いている人物は、バランスが取れて見えるように均衡の線を維持しなければならない。


2-11 影
影は、明るい日光の印象を与えます。絵を生き生きとさせたり歩行の動きを明らかにしたりするのも、非常に有効です。帽子の下の影になった顔、コートやスカートの裾の下の影になった脚は、人物に実体を与えます。地面に落ちた影は、床の平面の形状を明らかにします。
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(イラスト)影の使い方:
A.影を使うときに明暗をはっきりさせると、人物の形が定まる。
B.影は表面の様子を表したり、隙間のあるところとないところを明確にさせたりするのに使われる。

3、植生
おそらく、ワークショップでコ・デザインのアーティストが頼まれることの一番多い環境要素の一つは植生でしょう。樫の木が並んだ住宅街の道を描くことから、中庭の様子、あるいは窓から遠くに見える田舎の景色まで、いろいろあります。植生は、それらしく見える絵を描くのに大切な役割を果たします。

アーティストは、植生を描くように言われると萎縮しがちなものです。木に葉っぱを一枚一枚描くのは時間がかかって大変な作業だと思うからです。実際には、植生は難しそうに見えて簡単で、むしろ楽しいものです!
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(イラスト)葉の描き方:
A.個々の筆遣い。
B.まとまり(グプティルの技法に基づく。注32)。

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(イラスト)木の平面:
A.木の平面を3つまで減らす。
B.3つの平面を葉の筆遣いで融合させる。(グプティルの技法に基づく)


3-1 木の芸術的な解剖学

(第1段落)アーティストの最初の課題は、植生の解剖学を知ることです。周りの木をよく見て、それがどういうふうに地面から生えているか、どういうふうに幹が細い枝に分かれているか、どういうふうに枝が葉の茂みを支えているかを観察します。

自然なのは、木が成長していくかのように描いていくことです。地面から上に向かい、骨格にあたる枝の構造を作り、それを葉で覆います。

(第2段落)個々の葉はもっと大きな葉の塊を構成します。個々の葉を描くより、大きな塊を描くほうがもっと簡単で効率的です。特定の筆遣いをまとめることで、量を思わせるように描くことができます。様々な種類の木々を描くことができるように、筆遣いを練習してください。

上向き、下向き、左、右、その組み合わせ、尖っている、放射状、三角、そして繋がった三角という種類があります。3と5のリズムを交互に使う古代中国の描画テクニックは、葉を描くときの単調さを和らげてくれます。

(第3段落)木や潅木の平面を3つまで減らします。日の当たっている部分、中間部分、影の部分です。影は筆遣いを詰めて描くことで作ります。影はそれぞれの木の性質に応じて加えます。できあがった木の姿は、日の当たるところと影の部分のはっきりした対比が中間部分を加えることで和らげられています。

(第4段落)本物の木には枯れた枝が2、3本あったり、茂り方が均等でなかったり、葉が薄くて枝が見えているところがあったりするのを覚えておきましょう。そのような細部を加えると、絵がさらに本物らしくなります。風に吹かれているように葉を一定方向に描くと、動きのある効果が得られます。ところどころ舞い落ちる葉があるのもいいでしょう。

3-2 中くらいの距離にある木々

中くらいの距離にある木々は、塊として描くのが一番簡単です。例えば、ポプラ、樫、糸杉、モミ、柳など、その地域で一般的な木々の基本的な樹形を学んでおきます。中くらいの距離の景色は最も描きにくいものですが、木やフェンス、建物、車などがあると描きやすくなります。そうした要素は奥行きを制限し、景色を狭め、描画が必要な部分を減らします。

現実の木を見てスケッチし、それを簡単な筆遣いで表そうとするのは良い練習になります。中くらいの距離にある木の幹が落とす影は、地面の様子を表すのに効果的です。
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(イラスト)中くらいの距離にある木々を塊として描く:
A.見慣れた木々の形・・・柳、樫、ポプラ、糸杉、モミ。
B.樹形。

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(イラスト)針葉樹:
A.現地で詳しくスケッチしたもの。
B.明暗をはっきりさせたもの。
C.ワークショップで描く単純化した木。

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(イラスト)落葉樹:
A.現地で詳しくスケッチしたもの。
B.明暗をはっきりさせたもの。
C.ワークショップで描く単純化した木。

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(イラスト)木々が落とす影は地面の平面の性質を表すのに効果的。

3-3 遠くにある木々
遠くにある木々は、植生の種類を示す輪郭を持ったグラフィックなパターン、またはトーンとして描くのが最も簡単です。針葉樹の尖った枝は落葉性の低木の丸みのある塊とは異なります。木々のトーンは遠くに退くにつれて薄くなり、奥行きの印象を強めます。背景の植生のトーンは建物などの前景にある物体の縁取りを定めるのにも使われます。
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(イラスト)
遠くの植生は連続するグラフィックパターンのトーンとして描かれる。

# by ammolitering7 | 2013-06-21 13:34 | 「コ・デザインの手法」

第7章 (イラスト込み)

第7章 コ・デザインの描画の分析

1、描画の流れ

コ・デザインの描画の各部には、それぞれ特定の機能があります。カルガリー市のランジェヴィン・コミュニティースクールを例に取りましょう。屋上に温室を作るという提案のための調査です。ある物語を語る場合、対話が物語の背景を設定する一方で、そうした言語によるアイディアを継続するために絵が描かれます。以下、描画のそれぞれの部分を章ごとに説明します。

(1)人物を描く
人物の絵から始めることは、コミュニケーション上のいくつかの利点があります。人が景色の中心に置かれることで、見る人はその景色を自分の周りの本物の経験として視覚化することが可能になります。人物を空間の基準として確立することにより、絵は一層人間的な大きさを持つことになります。

景色は人物の目の高さを基準にして作られるので、参加者とアーティストの双方にとって本当に視覚的な経験になります。アーティストにとっては、人物は景色の中に縮尺を確立するための基準にもなります。目から地面までの長さは、他のすべての物を絵の中に正しく配置する基準になるからです。

(2)家具と床の表面について話し合い、描く

環境との最初の接点、すなわち座っている椅子や立っている床について考えます。形、仕上げ、素材が景色の雰囲気と質を確立し始めます。

(3)中心人物の周りに他の人々を描く

これは景色の中で周りの人々が与える社会的な距離の感覚を表し、デザインの過程における「人優先」の考えを強めます。つまり、全体的な人間の風景、社会的な活動を視覚的に描写し、さらに参加者が景色の中に自分を見て、描かれている活動を自分自身の経験と関連づけられるようにします。他の人物の存在は、活動全体に必要とされる空間の大きさ、平方フィート数に翻訳されます。

(4)参加者の指示に従って他の人物を描き加え続ける
人物が使っている家具、歩く床の表面、その他の周囲との接触点を描きます。周囲に関する話し合いは、光と、それが当たる場所(人々の顔、明るい休憩所、植え込みなど)に焦点を当てます。これは窓や天窓の数や配置、それらの間の間隔を決めるのに役立ちます。
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(イラスト)ワークショップの絵の流れ:
A.グループの指示に沿ったポーズの人物を描き、次に家具を描く。
B.参加者が指示する位置に他の人々と家具を描く。
C.人物を加え続け、指示に従って周りの細部を加え始める。
D.景色を完成させる。特徴を説明するメモを加える。


(5)景色を完成させ、メモを加える
絵の周りに書き込むメモは、視覚的でない要素を記録する助けになります。絵そのものは、望ましい経験の完全な姿を他の人たちに伝えるための細部、すなわち滝の音、植物の匂いなどを描き出すことはできないからです。

(6)参加者にサインするように頼む
この単純な行為によって、参加者の作画体験が完成し、絵の内容に対する責任感を強めることになります。また、描かれたものを現実とするために、プロジェクトに対して関係者としての関心を持ち続けることにも繋がるでしょう。


2、ワークショップに必要なものを用意する
(第1段落)アーティストにはそれぞれ、イメージ・ワークショップのための道具一式があてがわれます。まず、19インチ(48センチ)x24インチ(60センチ)のスチレンボードを、軽くて持ち運びやすい画板として使います。これはアーティストの膝の上に置きます。アーティストにとって描きやすく、参加者にとって見やすい位置にします。

立って描くのを好むアーティストもいるので、その場合はイーゼルを使ったり、ボードを壁に貼ったりするのも良いでしょう。どちらにしても、大事なのは参加者が絵とアーティストの目を見やすいようにすることです。

(第2段落)インクのにじまないベラム紙の上に、フェルトペンでくっきりした絵を描きます。ワークショップの前に、スチレンボードと同じくらいの大きさの紙を何枚か重ねて、ボードの上にマスキングテープで貼っておきます。参加者が替わる度に、毎回新しい紙の上に描き始めます。

紙の大きさとペンは、PMT(photomechanical transfer 写真転写)プロセスを使って白黒で複製するときに向いているという理由で選んだものです。

(第3段落)先の尖った黒のマーカーと、先が斜めになったカラーペン10色セットも用意します。選色はあえてシンプルにしていますが、描いてくれと言われることの多いものを描くには十分なバリエーションがあります。コ・デザインの絵における色の使い方に関する章で、選色の詳細を述べます。

3、描画のためのウォームアップ・エクササイズ
「筆遣いの6つの要点」
『第一は霊と呼ばれ、
第二はリズム、
第三は想念、
第四は景色、
第五は筆、
そして最後は墨である』荊浩(けいこう、生没年不詳)、唐末・五代後梁の山水画家
(注30)

(第1段落)経験を積むことで、他の人たちの前で少々の自信を持って描けるようになります。コ・デザインのアーティストは、ワークショップでの描画セッションの前に、ウォームアップするために特定の描画練習をします。このシンプルで短い練習によって、目と手の整合、他の人のために描く自信、そして遠近法のレイアウトの正確さを高めます。

(第2段落)最初は、点を線で繋ぐ練習です。紙の上に点がランダムに描かれています。一つの点から始め、次の点へまっすぐな線を引きます。常に目を第二の点に置くようにし、手で視線を辿ります。次は別の方向に引いてみます。目と手の整合が向上するにつれ、2つの点の間の間隔を長くします。

(第3段落)次の2つの練習は、一点に集中する遠近法の線の配置の正確さを増すためのものです。さきほどと同じ、点を線で結ぶテクニックを使って、想像上の頂点または消失点から扇状に伸びた2本の線を引きます。次に、この消失点に目を置いたまま、最初の2本の間、つまり扇の内側に第3の線を引きます。

同様に、想像上の頂点から2本の線を引き、3番目の線がこれらの外に(扇形の外側)になるように引きます。

(第4段落)最後に、これらの線描の原則を、遠近法の中の後退する台形を定めるのに使います。まず、水平線上に集中する3本の線を引きます。それから、遠近法上に現れるように、最初の台形の位置を推測します。次の台形は最初の台形のおよそ半分の大きさにします。推測の正確さは、台形の斜めの線を水平線上の集中する点に引くことでチェックできます。
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(イラスト)描画のためのウォームアップ・エクササイズ:
A.点を線で繋ぐ。
B.扇形の内側。
C.扇形の外側。
D.遠近法上の後退する台形。


4、絵を描き始める

(第1段落)クライアントグループまたはユーザーグループとの対話で絵を描くことになり、19インチx14インチの紙の前に座りました。目の前の果てしもない白い広がりは威圧的で、頭の中も同じように真っ白になります。どこから始めたら良いでしょう!?答えは、まず、話すことからです。描くことからではありません。話は、描こうとする活動に焦点を当てます。
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(イラスト)描く準備をする:
A.硬く縮こまった姿勢だと、硬く縮こまった絵になる。
B.見る角度が正しくないと、絵が歪む。
C.腕全体を動かして描くと、自由でリズミカルな絵になる。


(第2段落)悪い姿勢と描画に対するネガティブな態度には、体の硬さが関係しています。紙の表面に覆いかぶさるようにして身を硬くして座ると、同じく小さく固まった様子の絵ができあがります。水平な面の上で描くと、歪んだ絵になります。この歪みは、紙に少し角度をつけることで軽減されます。

(第3段落)ボードから十分に離れ、腕全体が動けるようにすると、より大きな自由と、緊張のほぐれた状態が得られます。肩から出る振り子のように腕が自由に揺れることができるのが理想的です。手首と指を使った小さなコントロールされた動きは、細かい細部を描くのには向いていますが、コ・デザインの絵の大きく、流れるような、そしてリズミカルな動きのためには、肘と肩を支柱として使うのが向いています。

(第4段落)軽い音楽があるとこのリズムが生じやすくなります。紙の上で、紙には触れずに、目に見えない線が見えてくるくらいまでペンを揺り動かします。利き手の小指の下側で軽く紙に触れて、支えとコントロールを与えます。そしてペンは、手が痛くならない程度にしっかりと持ちます。(まるでゴルフのコツのようですね!)

(第5段落)それでもまだ紙は白紙のままです。これから描こうとする絵は活動に基づくものなので、食べている、自転車に乗っている、机についているなど、その活動をしている人を描きます。この中心人物の目から水平に描いた線がこれからの遠近法の水平線になり、他のすべての環境的な要素を配置するにあたっての基準になります。

その最初の人物を描いたら、絵の他のすべての要素はそれに関連づけられます。そして、もはや絵は白紙ではありません。

5、景色を作る:対話の中で描くためのグラフィックなツール
(第1段落)コ・デザインのアーティストは、デザイン対話から絵へと滑らかに移行するためのツールを幾つか持っています。おそらく、中でも最も重要なツールは遠近法でしょう。絵は常に、活動にいそしむ最初の人物から始まり、それから立体的なスケッチへと進展します。

テクニックは、伝統的な遠近法の絵よりもシンプルです。コ・デザインの絵は、あらかじめ平面図や立面図を用意することなく描きます(注31)。

(第2段落)これ以降は、読者は遠近法を使って描くことに対して基本的な理解があるものと想定します。

5-1 対話の中で描くための便利で大切なツール
コ・デザインのアーティストは、絵のスタジオの落ち着いた環境の中で描くのではなく、市民ワークショップの混沌として騒々しい環境の中で描きます。参加者は、アーティストが消せないフェルトペンで描いている途中で気が変わったりします。どうやって作業を進めればよいのでしょうか。

5-1-1 計測の基本ユニットとして人物を使う

(第1段落)コ・デザインの絵はいつも、現地で何らかの活動にいそしむ人物像から始まります。この人物は、紙の中央あたりに高さ4インチほど(10センチほど)の大きさで描かれます。人物の絵のところから薄く水平線を引きます。これがこれからの遠近法のための水平線になります。

この最初の人物の目は、遠近法の消失点にもなります。この時点で、スケッチの他の要素について参加者にあらかじめ尋ねておくのも良いでしょう。しかし、まだ遠近法の枠の中には描きこみません。参加者は、もっと人物や家具や植生を入れるように指示するでしょう。最初の人物を定規として使って、やがてこれに歩道や車道や建物が加わり、その場をさらに形作っていきます。
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(イラスト)空間を測る物差しとしての人物:
A.4インチほどの高さの人物から始める。
B.他の人物を描くことで景色が定まってくる。
C.人物は水平および垂直の物差しとして機能する。ここでは、8フィート(2.5メートル)幅の歩道が簡単に加えられた。

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(イラスト)活動を絵と相関させる:
A.コ・デザインの絵は活動の集合とも見なされる。
B.それぞれの活動は、次のものと重なる2次元の平面と見なされる。
C.子供のおもちゃであるシャドーボックスのように活動を層にして重ねるのは、その場に生き生きとしたパターンを描くグラフィックな方法である。

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(イラスト)室内の景色を配置する:
A.室内の景色の始まり。
B.身長5フィート(1.5メートル)の人物が部屋の水平および垂直な限界を定める基準となる。
C.奥行きの長さは、背後の壁になる位置を決定する。最初の台形の大きさを横の壁に描き、それを遠近法に反映させる。


(第2段落)コ・デザインの対話が活動に焦点を当てるように、コ・デザインの絵も同じように活動がその焦点となります。景色を、「互いに重なる活動の連続が絵という平面に後退したもの」と考えるとよいでしょう。複数の活動が層となって平面の上に重なったものが絵です。子供のシャドーボックスが、二次元の紙を切り抜いたものを重ねて三次元の錯視を見せるようなものです。

(第3段落)最初に描かれた人物は、遠近法上で距離を決定するための測定単位になります。この人物の目の位置を、床から5フィート(1.5メートル)とします。この単位は、描画用のペンで描く水平および垂直の値を決めます。この基準人物が立っている平面に、壁と天井の位置を枠取りする想像上の「窓」(枠線)を描きます。

この「窓」は、部屋の境界を決定するための助けとして実際に描きこむこともできます。絵全体が、それぞれが一つの活動に呼応するそのような「窓」の集合体であると考えることもできます。

(第4段落)基準人物の目に決められた消失点は、今では、壁、天井、そして床の交差を決める線の開始点になります。利き手でないほうの手の人差し指をこの消失点にあてると、扇状の遠近法ラインの指標になります。

(第5段落)こうして、既に奥行きという幻想が表れました。しかし、背後の壁の奥行きはまだ決まっていません。奥行きを決めるときは、深くなり過ぎないように気をつけます。遠近法において奥行きをすばやく決定するためには、昔から伝わる2つのテクニックがあります。その一つはレオナルド・ダ=ヴィンチの方法、そしてもう一つはもちろん、だいたいこのへんだろう、といって決めることです。

レオナルドは、まず床または壁の四角いパネルの大きさを測り、それからこの四角の上の角から反対側の中心を通して、それが床と壁の線と交差するまで斜めの線を伸ばしました。この交差の点が次の四角の辺になります。

このプロセスを続けると、壁にはすぐに遠近法上では同じ大きさの四角が描かれ、絵の中に他の環境的な要素を描き入れることができます。

(第6段落)スタンレー・キングが開発した第三の方法は、基盤となる平面状に奥行きの深さを決定するために、算数上の比率と基準人物そのものを使います。4インチ(10センチ)高さの人物は、30フィート(約10メートル)先にいる人になります(巻末資料Dの計算を参照)。この人物の膝の高さから描かれる人物(身長は4分の3の高さ)は、40フィート(約13メートル)離れています。

第二の人物の膝の高さから描かれる人物(身長は第二の人物の4分の3の高さ)は、見る人から60フィート(約16メートル)離れています。

(第7段落)最初の2人の人物の間の距離は10フィート(40-30)、およそ3メートルです。次の2人の間の距離は20フィート(60-40)、およそ6メートルです。地面にこれらの長さを描くと、5フィートの人物の身長を基準として縦の長さを決めることができます。
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第7章 (イラスト込み)_f0239150_9141680.jpg

(イラスト)遠近法で奥行きの深さを決めるための方式:
A.離れたところにいる人物を置く高さを決めるため、基準人物を膝と腰で分ける。
B.正しい奥行きの深さが決定したので、他の環境的な要素を加えることができる。
C.同じ方式を使って遠近法から平面図を作ることができる。


5-1-2 絵の中で焦点を移動させる
(第1段落)デザイン対話の中では、討論の焦点が移るにつれて、絵の焦点も移ることがよくあります。グループの人たちの興味が絵の右端のほうで起こっている活動のほうに移ったのかもしれず、奥の壁の近くで起こっていることのほうが面白そうに見えたのかもしれません。消せないフェルトペンで描いていると、既に描いたものを変えることはほとんどできません。しかし、次の幾つかのペンの動きでデザインd対話を継続させることができます。

(第2段落)そのようなテクニックの一つは、絵を徐々に一点透視から二点透視に変えることです。右側で起こっている活動が話題の中心になった場合は、扇形になるように水平の線を描き直すことで絵の中の活動または焦点が右に動きます。そうすると、新しい焦点は以前の絵の平面上にはなくなり、新しい右側の部分の水平線上の点に消失します。同様に、景色は部屋の中から隣の部屋へ、あるいは隣接する外の空間へさえも移ることができます。つまり、壁を突き抜けて見ているようなものです。

こうなると絵は普通の人間の視界を越えますが、遠近法の決まりは単にデザインのアイディアを話し合う上での助けに過ぎません。要点は、絵の融通性と適応性を保つことです。できあがったときはごちゃごちゃしているかもしれませんが、デザインに関する話し合いが自然な流れに沿って続くこと、そして環境に関する情報を記録することのほうがずっと大切なのです。

(第3段落)アーティストは、絵の基準と方向性が望ましい情報を伝えられるように、常にコントロールすべきです。決して参加者が言いたいことを絵が制約することのないようにしてください。絵は単にアイディアを共有してコミュニケーションを取るための道具に過ぎないからです。

最終的な絵は、あとから報告書に入れたり展示したりするときに整えることができますが、この時点では活力のあるごちゃごちゃした様子を気にしないでください。間違った線を引いてしまったら、修正しようとして何度も引き直すのは避けます。単に間違いが目立つだけです。
第7章 (イラスト込み)_f0239150_9144426.jpg

(イラスト)絵の焦点を移動させる:
このワークショップ画は、左側の会議室から始まったが、その後グループは隣接する受付部分に話題を移したため、一点透視から二点透視への移行が必要となった。また、構図の横には対象の相対的な位置づけを明らかにするためにメモを入れた平面図も描きこまれている。このような視覚的なメモは、デザインの次の段階の仕事をする人に役立つ。

# by ammolitering7 | 2013-06-21 09:15 | 「コ・デザインの手法」

第6章 (イラスト込み)

第6章 対話の中で描く

1、コ・デザインのアーティスト
(第1段落)コ・デザインの描画技術には、想像上の景色を生き生きと描くことに慣れていることと、意味のある環境的な情報を伝える能力が必要です。できあがった作品は、公共の美術館で展示されたこともありますが、本来は環境に関する情報交換のための便利な作業用「文書」です。ある一定の芸術的な技術が必要ではありますが、ワークショップで描かれる絵はいわゆる芸術作品ではありません。

(第2段落)簡単に言うと、この技術に必要なのは、素早くスケッチする能力、豊富な心の中のイメージ(グラフィックな語彙)を使って正しい構図で描く能力、そしておそらく一番大切なのは、他の人たちの前で彼らの指示に従って描く能力です。

この章では、こうした特定の技術について、そしてそれがデザインの過程で市民との協力関係を形作るのにどのように役立つか、ということを詳しくみていきます。

2、アーティストの役割について

(第1段落)コ・デザインの絵には、「アーティストに環境をデザインする上で大きな影響を持つリーダーとしての役割を与える」というユニークな性質があります。

(第2段落)アーティストは、この経験を珍しくて気分が高揚するようなものだと感じます。ワークショップの参加者たちは、アーティストを人ではなく自分たちの手や目の延長として見るようになります。参加者がこれまで自分の心の中だけで見ていた景色をアーティストがその優れた能力で紙の上に表していくにつれて、参加者の喜びと高揚感は増してきます。

アーティストが本当に参加者の手や目の延長だということを示す幾つかの徴候があります。参加者は、アーティストを飛び越えて完全に絵に注目します。ときたまちらっとアーティストの目を見て、絵が思うようにできているかということに関して同意を示すだけです。

アーティストと参加者の間で意志の疎通をするための主な手段は、目を合わせることです。絵が出来上がると、グループのメンバーはそれにサインしますが、アーティストにもサインするように頼むのを忘れる、ということもよくあります。

絵が出来上がると、グループのメンバーは「自分たちの」絵を見せるために他の人たちを連れてきます。そして作品について個人的な誇りを持って語ります。

(第3段落)コ・デザインのアーティストの役割は、他の意味でも特殊です。つまり、絵は公開の場で描かれるので、アートスタジオの孤独な作業とは違って社会的な状況におけるコンセプト化と描画の能力を示すことができます。

アーティストは作業の進展に欠かせない存在として機能することを要求されます。そして、彼らの芸術的な技術は、実際的、必要性がある、稀なもの、そして有益な能力として見られます。アーティストはリーダーの役割を果たし、討論の焦点を絵の作成に置く手伝いをします。

考えやアイディアは、すべて創造的な直観とアーティストの知覚、すなわち言語を線に変えるフィルターや転換機を通されます。つまり、アーティストは受身的な役割を果たすのではなく、集合的な作業の発展を導き、プロセスにおける動的な想像力を伝えます。アーティストの影響については、のちほど詳しく論じます。

3、触媒としての絵
他の数人の人々の指示の下で描く能力、すなわち彼らのアイディアを促し、提案に耳を傾け、そしてそれを一貫した視覚的なイメージに組織化する能力は、コ・デザインのアーティストにとって最も難しいものです。

左脳の論理的で合理的な言語に基づく活動と、右脳の芸術的、創造的でイメージに基づいた活動の間を、行ったり来たりしなければなりません(注29)。話すことと描くことを同時に行うのは、とても難しいものです。ここでは、描くという作業を物語を語っているのだと考えると役に立ちます。

参加者の物語、想像の中の新しい場所で何らかの活動にいそしむ物語です。アーティストとワークショップ参加者が一緒に絵に取り組む様子を見てみましょう。
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(イラストA)
アーティスト:あなたが座っているところを描きましょうか?それとも立っているところですか?
参加者:きっと座っていると思います。

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(イラストB)
アーティスト:どんな椅子に座っていますか?
参加者:屋外のレストランにあるような、背もたれの丸い椅子です。

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(イラストC)
アーティスト:どんなテーブルについていますか?
参加者:丸いテーブルです。脚が金属で、先がくるっと丸まっているタイプです。
別の参加者:パラソルがあります!

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(イラストD)
アーティスト:テーブルには他に誰かいますか?どこに描きましょうか?
(アーティストは次の人物を描く場所を探して絵の上でゆっくりと手を動かす。)
参加者:そこです!


「対話の中で描く」:
A.アーティストは座った姿勢の人物を描くが、椅子は描かない。
B.アーティストはグループの中の他の人たちをちらっと見て、同意があることを確認する。
椅子を薄目に描きながら、アーティストはもう一度同意を確認するためにグループを見る。
C.アーティストは再びグループを見て、認められていることを見てとったら、テーブルとパラソルを薄目に描く。
D.アーティストはグループの指示に従ってテーブルについている人と他の人たちを描く。



この場合、絵は屋外のカフェの様子を伝えることを目的としており、質問は常にそれに基づいて展開しなければなりません。アーティストとグループのメンバーとの間の対話は、アイディアと情報の双方向の交換です。グループは絵を描く上で文字通りアーティストに指示を下していますが、皆が創造的な瞬間を共有しています。

対話の流れを維持して参加者に彼らの個人的な内面の視界を明確にするように促すのはアーティストの仕事だからです。

4、アーティストは支配的になるのか
(第1段落)アーティストが皆で共有するイメージではなく自分が作った個人的なイメージへとグループを誘導するのではないか、という恐れは杞憂です。潜在意識的に、アーティストは個人的かつ文化的な価値観と好みを差し挟んでイメージの発展を導くかもしれません。

しかし、コ・デザインのアーティストは大抵の場合は都市計画やデザインの分野の人たちなので、プロとしての十分な技術と知識があります。環境に関する知識があり、建築的、技術的に十分な能力があることを考慮すべきです。

対話に私たち自身の考えを入れるのを避けるために、そうしたプロとしての知識を否定して、言うなれば「馬鹿な振りをする」のは無益なことです。コ・デザインのアーティストとワークショップ参加者の間の特別な関係はむしろ、アーティスト/デザイナーにとって参加者一人一人と機能的な協力関係を築くためのエキサイティングな機会です。両者の合同による知識と経験を共有することで、どちらかが自分たちだけで作り出すよりも良い結果を作り出すことになります。

(第2段落)イメージの発展において、アーティストの見方が支配的になるのを防ぐための構造的な仕組みもあります。たとえば、参加者は投票のときに棄権したり、無視したりすることができます。皆で一緒に絵を描いている間に、小さなグループの間に強力な共有感覚が生じます。

グループの中のそれぞれの人がスケッチの要素に貢献すると、絵全体への所有の感覚が育ちます。グループのメンバーは、絵が提案に合わないように見えたり、何かが正しくないと感じたりすると、すぐにアーティストに知らせます。

(第3段落)そのためにも、絵ができていく中で、提案がなされたときに参加者の目を見てチェックすることが大変重要になります。これはグループの満足度を測るのにもっとも速くて最も正確な方法です。

アーティストは、グループが描写するビジョンに近付くために、絶えず目を合わせます。そして、グループの静かな反応を観察することによって、絵への同意または不同意を知ることができます。こうしてアーティストは、できあがった絵がグループの希望を正確に反映するものとなるようにして描いていきます。

参加者の独創性と想像力を通して絵ができあがっていくにつれ、グループの中で最も内気な人の中にもインスピレーションが広がり、創造的になっていきます。これは視覚的なプロセスなので、関わる機会はグループの中で一番弁の立つ人に限られるということはありません。英語に困難のある人でも、自分のアイディアを共有することができます。

(第4段落)もちろん、絵のスタイルがアーティストの特定のスタイルを反映するのは避けられません。誰もが紙の上で自分を独自に表現するからです。しかし、絵の内容はグループの産物であり続けます。このようにして、アーティストとグループの両方が絵に対して所有の感覚を持つようになります。

私たちの経験から、アイディアを肉付けして、より豊かな環境を描いた物語を絵という形で伝えようとする中で、参加者がアーティストの芸術的な能力に対して持つ畏怖の感覚は、すぐに共同作業の感覚の影に隠れてしまいます。

程なくして、参加者たちは「違います、椅子にはクッションがついていて、背もたれは丸っこい形です」、「歩道のこのへんに、もっと木がたくさん要ります」などと堂々と発言するようになります。
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(写真)アーティストが指示とアイディアを求めてグループのほうを見る。(撮影:フレッド・クリングベール)
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(写真)対話の最後の色塗りの段階で、参加者が自ら塗っているのでアーティストは離れて見ている。(撮影:ジョン・マッケンジー)
# by ammolitering7 | 2013-06-21 08:45 | 「コ・デザインの手法」

第5章ー2 (イラスト込み)

2-6 視覚、光、色
「見る人の目がその場を眺める。そして動きの中で建築が生まれるのを見る。言い換えれば、設計は抽象的な要素ではなく、視覚的な経験を組織化する体系である。それは動きの中に生じ、時間と共に現れる・・・『建築的な散歩道』の脚本である。」ル・コルビュジェ(注22) 

書記の質問:周りに何がありますか?自然な光、あるいは人工的な光がありますか?その向こうにはどんな景色がありますか?色の幅はどうですか?青、赤、あるいは黄色ですか?色は暖色ですか?寒色ですか?光の当たるところにいますか?影の中にいますか?

(第1段落)これらの質問への答えは、位置づけ、窓や人工的な照明の種類や位置、表面の始末、屋外のスペースのまとまり方に影響します。視覚的な知覚にとっては、光が鍵となります。ハイライトと影とで物体の存在を形作るのは光です。

光は不透明なものに対して透明なものを浮き上がらせ、色の感情に訴える性質を気づかせてくれます。音楽的な調和を喜ぶように、人間の目は光の中にある比率、線、リズム、繰り返し、そして色の視覚的な調和を知覚します。また、感情的な反応を引き起こす特別な種類の光があります。ネオンのエキサイティングな点滅、木々の葉を通した柔らかな日の光、ロマンチックな気分を誘うロウソクの光と月光などです。

クリストファー・アレキサンダーはこう述べています「人は本質的に向日性だ。人々は光に向かって動き、じっとしているときには光の方を向く」(注23)。

このように、光と動きは関連しています。人が暗い森の中で明るい開けたところに向かって歩くように、光の好みもまた、デザイン用語に翻訳できるイメージを呼び起こします。ある場所に日の光が欲しいという希望は、法律によるどんな高さ制限よりももっと強く、周りの建物の高さに影響します。

日の出や夕日を見たいという希望が述べられれば、それは自然と建造物の位置づけに影響します。語り合うという活動は、頭の形がシルエットになって見えるときより、顔に光が当たっているときのほうが格段に楽しいものです。したがって、前景は背景より明るくなければなりません。

「彼らは修道教会の大きな本堂に入って座った。高い、涼しいアーチ型の屋根。その有名な扇状のはざま飾りは、彼の心にまるでそれが緑したたる静寂の中の枝葉が茂った景色であるかのように感じさせた。そして、それと共に彼の魂は、風に運ばれてはるか遠くへと漂う、多くの葉のあいだの一枚のようだった!その高い屋根にはかすかに緑色がかった霧がかかり、下にある色つきの窓から入り込む水平な日の光の柔らかな温かさと相まって、洞窟の中のような対照の効果を出していた。」ジョン・カウパー・ポーイズ
(注24)

(第2段落)審美的な価値とは、主に人間に共通的な生理に基づいているために共有されるものです。二つの目による視野と、目と目の間の距離のため、人間は特定の相対的な比率を好みます。かつて、ある大きな建物の前に座っていたとき、私たちコ・デザインのアーティストはその比率について考えました。その建物をスケッチしていて、主な特徴と他の特徴の比率を知る上で座標として使うために、私たちは水平あるいは垂直の主な線を探しました。

しかし、座標として機能するような強調された垂直の線も水平の線もありませんでした。この場合は、ある特徴と別のそれとの比率を計るのは困難でした。1:3と2分の1、1:4と4分の1、1:5と2分の1など、変わった比率だったからです。その建物をスケッチしようとする試みは非常にいらだたしいものでした。ひどく嫌な感覚がして、もう見ることができないほどでした。

しかし、他の場所でスケッチしたときは大きな喜びを感じました。そして、簡単に描くことができました。これらの建物は、1:1、1:1と2分の1、1:2などの比率があり、主な特徴の間には1:1.6という黄金比が使われていました。つまり私たちは皆、ある構図が美的な感覚を満足させるかどうかを潜在意識で知っていたのです。

「物がぴったりと
高いか低いか
平べったいか曲がっているか、それを知ること
これははっきりと見るという性質に他ならない
そして私は幸いにも物をはっきりと見ることができる
そうでないということはありえないのだ」アントニオ・ガウディ
(注25) 

(第3段落)別のときには、BC州のペンダー島でのスケッチ教室のときでしたが、私たちは景色の大きさや比率をあらかじめ調べることなく、単に魅力的だからという理由である景色を選びました。最も好ましく見える場所に身を置いてから、私たちは自分たちがスケッチしたばかりの景色の主な特徴の間の比率を測ってみました。どの場合も、比率は私たちが人間の目にとって特に好ましく映ると知った比率と全く同じでした。

それはまるで、ちょうど音楽家が音楽の中に調和を作り出すように、私たちも比率の中に調和を選んだかのようでした。私たちがスケッチするのを楽しむ比率は、私たちがある建築において美しいと感じるものと全く同じであることが証明されました。
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(図)視界の区分:ゾーン1~4

(第4段落)現地の描写は、人間の視界の4つのゾーンすべてにおける経験をカバーする必要があります。

*普通の円錐状の視界
*高齢者や子供が最もよく経験するゾーン。足元に近い、床のテクスチャーや段差に注意。
*頭上の気づかれないゾーン
*背後の部分。一方通行の道を振り返ってみると、全く新しい視覚的な経験が現れます。

(第5段落)色は私たちにとって強い感情的な含意を持つことが多く、気分に影響します。

「もしもこの壁、あるいはあの壁が青だったら、それは引っ込んで見える。もしも赤だったら、平坦なままだ。または茶色。私は黒にも、あるいは黄色にも塗ることができる。色は設計図や区分けと同じように建築の力強い手段だ。もっと言えば、色は設計図や区分けの要素そのものだ。」ル・コルビュジェ
(注26)

(第6段落)緑色は寛ぎをもたらします。明るい青の中にいると、精神的に明晰になるのに役立ちます。赤は身体的な活動と落ち着きのなさに繋がるかもしれません。色の強さ、または色度は、狭い場所を視覚的に広くしたり、がらんとした場所の空虚な感じを抑えたりすることによって、建築スペースに影響します。

2-7 触覚
「イメージの世界は、単に几帳面な感覚器官だけに刻まれるのではない。むしろ、対象を見るとき、私たちはそれに近付こうとする。目に見えない指で私たちは自分の周りの空間を動き回り、離れたところにあるそれに近付き、それを触り、捕まえ、その表面をなぞり、輪郭を辿り、テクスチャーを調べる。それは大いに動的な行為だ。」ルドルフ・アルンハイム(注27)

書記の質問:あなたは何の上に立っていますか?または座っていますか?どんなテクスチャーですか?空気の感じはどうですか?温かいですか?ひんやりしていますか?肌に雨や日の光が当たりますか?屋内にいるなら、温かさは暖炉のような熱源からきていますか?それとも空調設備からですか?

(第1段落)環境の知覚は、それに最初に触れたときから始まります。つまり、足元の床です。提案されている環境を、立つ床や座る椅子から始めて考えてみてください。作業用の長靴を履いて産業的な鉄格子の冷たい鉄鋼の上を歩くのは、裸足で太陽に温められた砂の上を歩くのとは正反対です。歩く表面にはいろいろあります。玉石、レンガ、アスファルト、木、草などです。ガラスや磨いた大理石の滑らかさは、木の板や小石の入ったコンクリートの粗さとテクスチャーが正反対です。

(第2段落)温度、湿度、テクスチャー、形のかすかな違いの差異において、肌、細胞膜、そして末端神経の生理的な知覚は非常に敏感です。それらは私たちの視覚的な知覚を強化あるいは変化させるかもしれません。意識的にとは限りませんが、私たちの環境の理解の多くは触覚を通して経験されます。

顔に受ける日の光の温かさ、海で泳ぐときの冷たいショック、地下鉄の鉄格子から吹き付ける熱い風、アパートのバルコニーを渡る涼風、、、どれも環境のデザインについて何かを示しています。温度の好みも、暖房や空調の必要性をデザイナーに示します。

(第3段落)触覚とテクスチャーに関する発言は、デザイナーに使用する資材(ベルベットのカーテン類、石のベンチ)に関する情報も与えます。そして、ある一人との親密な触れ合い、または群集が押し合いへし合いしているなど、他の人々との接触も示します。

2-8 味と匂い
書記の質問:近くに食べ物や飲み物はありますか?海や植物からの自然な匂い、または人工的な匂いはありますか?

(第1段落)味は飲食と活動を関連付けます。匂いは記憶の想起のための最も強力な媒体です。ある物事に対する私たちの反応は、過去の活動を思い出すことに基づいています。思いがけなく樟脳の匂いを嗅げば、祖母の家の屋根裏の様子を思い出すかもしれません。あるいは、通りすがりの人の香水や過去の恋を思い出させるかもしれません。

味と匂いの知覚は動きと関わることもあります。居間の隣にある台所、1ブロック離れたところにあるレストラン、または自然の中でのキャンプなど、 飲食物は普通、今いるところとは別の場所で得られるからです。匂いは自然なもの(植物、動物、天候、土、人々)から機械的なもの(油、ゴム、排気ガス、熱い金属、ペンキ)まであります。

(第2段落)昔ながらの商店街では、表のドアから換気します。そのため、歩道を歩くと中の活動の嗅覚的なカタログを体験することになります。靴作り職人の店、パン屋、八百屋、タバコ屋は、どれも独特の匂いがします。しかし現代的なショッピングモールでは、一定した匂いのない内部環境を維持するため、建物の背後から換気します。

嗅覚による知覚が購買活動にとってとても重要であると分かれば、テナント店はモールの管理人に換気扇を逆向きに回すように頼むかもしれません!

3、遊歩道のためのサンプル対話
以下のメモは、BC州バンクーバー市フォールスクリークのデザインの参加者たちとのインタビューから抜き出したものです。参加者の反応の例として紹介します。

「人々」
ここに住みたい。プライバシーが欲しいが、他の人たちの近くに住みたい。何らかの共同のリビングルームとキッチンがあるが、プライベートな部屋もある。ボートがたくさんある。夜は停泊し、小さな旅館やホテルやホステルのように、ボートの中に泊まれる。でも、ボートで埋まって水が見えないほどたくさんではない。

「動きと循環」
ボートのある景色の中で、動きがたくさんある。入ってきたり、出ていったり。漁船もあり、魚を売っていて、近くにレストランもある。殺風景ではなく緑がたくさんある。小さな塊の緑。緑地は線状になっていて、皆が少しずつの緑のそばに住むことができ、すぐに行けるようになっている。自転車を停めるところがある。道路わきに自転車を停める余地がある。
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(イラスト)屋外レストランのある歩行者道路のコンセプト画。

「時間」
一日24時間開いている。夜通し続く活動。活気があり、かつ都会的。

「気分と雰囲気」
小さくてカジュアル。おいしい食べ物や、人々が集うことで知られるような場所。インテリアでではない。友達に会えるから行くようなところ。どんな種類の人でも集える。コミュニティーの中で一日を過ごせる。(コーヒーなど)飲み干したらすぐに出なければいけないのではなく、その場の雰囲気を十分に満喫するまでいられる。

「音」
音楽、子供が遊ぶ声、母親が呼びかける声、ときどき車の音がする。タグボートの笛の音。交通の音はしない。

「視覚、光、音」
夏は明るい色、ひさしの色、どの階にも植物がある。色とりどりの衣服。でも冬にはもっと森のような色になる。緑、灰色。3階建て。バルコニーに子供たちの姿が見える。家庭と外部を繋げるためのバルコニー。居間の延長のようなもの。でも、少しプライベート。裏庭がある。でも前庭や無駄な脇の庭はない。どこにも繋がらない無駄な袋小路はない。緑がたくさん、でも公園ではなく、一つのエリアから別のエリアへ繋がって楽しむために散在している。結びつき。

「触覚」
私の足くらいの大きさで、パターンがあるものの上を歩く。イスラム風、またはムーア(北アフリカ)風、どこから見てもほんの少し違う。場所によって、へこみと出っ張りの差異を感じられる。自転車はあるテクスチャーの上を行き、歩行者は別のテクスチャーの上を行くのがはっきりと分かる。水際にはフェンスがない。単に歩道が高くなっている。ほんの小さなガラスの板、レンガ少々、滑らかな手すり、子供が手を洗うための小さな噴水、彫刻の顔を触る。

「味と匂い」

食べ物、中華、ギリシャ料理。靴屋の革、ボートと海の匂い、香水店、売っている物すべての匂い。

4、現地視察での知覚経験を強めることに関して

(第1段落)ある予定地をグループで知覚しようとするとき、目的は私たちが共通して持っている価値観を見出すということです。それは意見の一致を探る行為です。担当者の仕事は、そうした価値観を指摘して明確化し、ワークショップの参加者がその性質にはっきりと気づくのを助けることです。

(第2段落)人は往々にして環境を部分的に知覚します。現地の視察では、特定の性質が抜け落ちることのないように注意し、景色がすべての感覚を活性化するようにする必要があります。無駄話はせず、経験に関して互いに意見を交換するだけにします。このためには、一列になって、あるいは一人で歩くのが効果的です。

また、現地が持つ膨大な情報を分類するためには、一度に一つの活動に集中することです。この活動に関連する現地の性質、特徴、そして制約に注目します。

(第3段落)可能であれば、現地で皆でピクニックランチを食べるのが良いでしょう。商業地域であれば、地元で食べ物を買います。こうすることで地元の商売人に会ったり他の客たちの活動を観察したりすることができます。ランチを食べるときには座って食べるための場所を探すので、現地とそのスペースを視覚的に観察することになります。また、静かな場所を選ぶので、動きのある道や群集の循環を知覚します。

また、日の当たる場所を探すことで、光、影、そして位置づけの様子を観察することになります。座るところを見つけると、表面の様子とテクスチャーと資材を調べます。食べている間は喋らないので、その場の音を聞きます。食べ物の味と匂いは、環境の中でのこれらの感覚の知覚を呼び覚まします。
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(写真)ワークショップの準備のために現地をスケッチする。(撮影:ビル・ラティマー)
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(イラスト)現地スケッチ。

5、現地をスケッチする

(第1段落)コ・デザインのアーティストは、市民とのワークショップ・デザイン討論で使うための景色の要素を学ぶため、現地をスケッチします。コ・デザインの描画の真髄は、一群の人々のために想像上の景色を作り出すというワークショップの中で出来上がるものです。

そこで描かれる光景は、その場所の理想的な未来の姿です。しかし、それはもちろん、コミュニティーの中央大通り、開発されていない空き地、放置された建物など、実際の場所に基づいて描かれた姿です。コ・デザインのアーティストは、現地の現状のおよその姿を描き出すことができなければなりません。

記憶に収めた現地の状況を完全に描き出すために、歴史的な建造物、現存する植生の種類と塊、独自の地形、隣にある建物の種類など、現地の特別な特徴を記録しておく必要があります。

(第2段落)スケッチブックを持って市民ワークショップの2~3日前に現地に行くには他にも理由があります。描くこと以上に対象をよく見るように強いるものはありません。写真、ビデオを撮影したり、たくさんのメモを取ったりすることよりも、アーティストはスケッチすることによって現地をもっと深く学ぶことができます。

現地をスケッチすることで、アーティストは真剣に、そして注意深く現地を観察します。さらに、数分の間じっと立って絵を描く必要があるので、現地の美しさや欠点、その雰囲気、匂いと音、そして通り過ぎる人々の動きについて気づく機会にもなります。現地をスケッチすることで、あとでワークショップで同じ要素を描くときの練習になります。

(第3段落)アーティストはワークショップの前に少なくとも一度は現地を訪れるべきです。冬なら、車の窓から描くのでも十分です。現地を訪れる理由は、完成された立派なスケッチ画を描くことではありません。あとでワークショップで討論をするときに役に立つ現地の要素を観察して記録することです。知覚するためにはしばらくの間じっとしていることが必要なので、環境をもっとよく感じ取ることができます。
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(イラスト)メモを書きこんだ現地スケッチ画。
# by ammolitering7 | 2013-06-21 08:11 | 「コ・デザインの手法」

第5章ー1 (イラスト込み)

第2部 技術を身につける
第5章 個人的な経験と知覚(PEP)

1、知覚に関する共通する言語を開発する
「人々の創造性に焦点を与え、個人が自分の勘と知識を具体的なアイディアに変えるのを助けるための言語が必要です。それは一般の住人の視点と建築家の技術的な思考や専門用語との間の溝を埋めることのできる言語でなければなりません。」リン・ニューマン・マクドウェル(注14)

コ・デザインで描かれる絵は、どれも言葉から始まります。絵は単に言葉を促すための触媒として存在します。言葉は視覚的なイメージを補って、参加者たちが想像する理想的な環境をもっと完全な形で描写します。参加者はアーティストを通じて自分のイメージを発展させます。人、動き、時間、雰囲気、音、光、質感、味、匂いに関する非視覚的な提案が出されたら、書記が記録します。

こうした対話はデザインの最初の段階でなされます。それはすべての可能性が考慮される段階であり、情報は多ければ多いほど良いのです。

2、個人的な経験と知覚(PEP)の価値

(第1段落)参加者たちからは、専門的な訓練がないのにどうやって専門用語を操る建築家やエンジニアや都市計画者との対話に入れるのか、という質問が出ることがよくあります。しかし、正しい質問が示されれば、参加者たちは専門知識がなくても環境に関する問いに対して有益な情報を提供することができます。

コ・デザインでは、人々の個人的な経験と知覚に関する質問をします。人々は、環境の中で起こる現象に自分がどう反応するか、ということに関して、皆がエキスパートなのです。参加者たちは自分たちの好みを詳細に、的確に答えます。

(第2段落)答えの中には、「普遍的なコメント」とも言うべきものがあります。私たちは皆、そのような反応、感傷、そして共通する価値観を共有しているので、そのようなことは都市計画に当然含まれるものと考えられがちです。しかし、単純なことであっても、見落とされることが多いのです。

私たちの暮らしの中でこれらの基本的な価値観が将来に渡って大切にされるように、意識的にイメージの中に取り入れます。
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(PEP図と書記の質問)
視覚、光、色 - 周りに何がありますか?自然な光ですか?人工的な光ですか?スポットライトですか?蛍光灯ですか?向こうに何が見えますか?色調はどんなものですか?青、赤、あるいは黄色がかっていますか?温かい色合いですか?冷たい色合いですか?陽の当たるところにいますか?日陰にいて日向を見ていますか?

 - 何が聞こえますか?自然な音ですか?機械的な音ですか?音楽、会話、子供の声ですか?高い音ですか?低い音ですか?静かな音ですか?耳障りな音ですか?

触感 - 熱:放射するような熱ですか?全体的な温かさですか?空気、風、日光、雨、雪の触れる感じは?何の上に立っていますか?何に座っていますか?地面の表面はどんなものですか?

時間 - この場所をいつ使いますか?どれくらい頻繁に使いますか?どれくらい長くそこにいますか?決まった時間に来ますか?ふらりと訪れますか?季節による違いはありますか?

雰囲気、気配
 - 活動的、静寂、気楽、エキサイティング、陰気ですか?場所の感じはどんなふうですか?

味覚、匂い - 近くに食べ物や飲み物はありますか?活動の匂いはありますか?自然な匂い、それとも人工的な匂いですか?

人々 - 周りに何人くらいいますか?一人でいる人、二人連れ、それともグループですか?規律のある集団ですか?それとも何となく連れ立っている人たちですか?人々が集う場所ですか?それとも一人でいるような場所ですか?

動きと循環 - どうやって訪れますか?徒歩、自転車、あるいは自動車ですか?その場所ではどうやって動き回ったり通り抜けたりしますか?小道や歩道はどんな感じですか?上ったり下りたりはしますか?


(第3段落)コ・デザインの作画では、こうした基本的な好みに関するコメントをないがしろにしません。デザイナーにとって重要なヒントを含んでいるからです。たとえば、ある場所に日の光が欲しいというコメントがあれば、それは南側の建物の高さを制限するようなデザインにする、ということにつながります。

屋外のレストランで会話をしたいので道路の騒音が聞こえないのがいい、というコメントなら、デザイナーが道路の位置を決めたり道路わきに特別な処理をしたりするヒントになります。このように、絵は人々が活動に関する自分の知識を環境計画者やデザイナーにとって有益な情報に翻訳する助けとなり、人々とデザイナーの間に協力関係を作ります。

(第4段落)これは、患者に日常の経験に関する質問をして、その答えを専門的な医学用語に変える医者の診察に似ています。コ・デザインのワークショップでは、デザイナーが参加者に彼らの活動の好みと、それぞれの活動を取り巻く物理的な状態について質問します。参加者の日々の活動に関する質問をすることによって、デザイナーはその後、答えを専門用語に直すことができます。

(第5段落)アーティストと書記は、参加者が自分たちの好みをより広く考えることができるように、頻繁に可能性やアイディアを提案して議論を拡大します。アーティストと書記の用意した可能性が多ければ多いほど、参加者との対話も豊かになります。

デザインに関して豊富な知識を持つ建築家と都市デザイナーは、参加者が建築環境のための代替案を踏査するのを助けることができます。デザイン分野に馴染みのない方には、クリストファー・アレクサンダー他著の「A Pattern Language(パタン・ランゲージ )」(注15)をお勧めします。

同書は様々な活動に適した環境に対して豊富なアイディアを提供します。私たちの経験から、「A Pattern Language(パタン・ランゲージ )」のアイディアはコ・デザインの対話の中で質問のための指標として使ったときに非常に効果的であるということが言えます。

(第6段落)ワークショップで人々に質問をするときは、私たちの感覚が周りの環境から得続ける様々な知覚に焦点を当てます。PEP値は、自分の考えをデザイン用語を使って表すことに慣れていない子供や大人たちが周りの環境を知覚する上で、そして理想的な想像上の環境を描写する上で、有効な枠組みであることが実証されています。

PEP値は、人、動き、時間、雰囲気、音、光、感触、味、匂いに分類されます。これらの分類には、私たちが特定の環境を理解しようとするときに押し寄せる様々な感覚的な刺激を理解して整理するのに役立つ非視覚的な知覚も含まれます。

2-1 人
「私たちは暮らしの『解釈』が建築の本当の役割だと知っている。なぜなら私たちは、建物は暮らしのために、住むために、幸せに住むために作られていて、その暮らし、喜び、そして生きた美しさに貢献するようにデザインされていることを知っているからだ。」フランク・ロイド・ライト(注16) 

書記の質問:周りに何人くらいいますか?一人ですか?二人連れですか?あるいはグループですか?カジュアルに集まったグループですか?それとも何かの規則性のある集団ですか?そこは人々が集うための場所ですか?それとも一人でいるための場所ですか?

(第1段落)これらの質問への答えは場所の大きさを示し、したがってだいたいのコストを示します。

(第2段落)自分がその場所にいる様子を視覚化することは、活動に関する幾つかの重要な初期的なデザイン基準を定めることになります。屋外のカフェで飲食をするということであれば、パラソルの下にテーブルがあって、その周りに椅子がいくつかある、というのがスペースのユニットを決定します。

ビジネスのグループや家族連れなど他の人たちがいるなら、それに応じて空間的な必要性も大きくなります。テーブルとテーブルの間の距離に対する好みと他の客の数も、必要とされる空間の大きさをさらに詳しく定めます。カフェテリアに集う学生たちのグループは、肩寄せ合って話したり勉強したりすることを好み、一人当たり12~15フィートの空間を必要とするでしょう。

一方で、ビジネスの会合や恋人たちのデートの場所になる洗練されたレストランでは、テーブルとテーブルの間に広い空間があって自分たちだけの会話ができます。おそらく一人当たり17~22平方フィートが必要でしょう。

(第3段落)一部の劇場では、客が入ってくると互いを見ることができるように配慮されています。夜のイベントの大きな要素は、誰が何を着ていて誰と一緒にいるかを見ることだからです。人が集って出会い、あるいは他の人たちがそうするのを見る場所は、往々にして明らかに劇場あるいは競技場の形をしています。

周りにいる人たちの性質は、私たちの感情に直接的な関係を持っています。私たちは時として都会的な場面の匿名性、通行人のつかの間の存在を楽しみます。同時に、他の場合には共同体の暮らしに加わることを楽しみます。成功する場所はいつでも、訪れる人に他者との関わり、あるいは関わらないでいることという選択肢を残しています。

2-2 動きと循環
「ワシントンは期待通りに優雅なところだった。緑の公園の向こうの白い柱、広々とした通り、くね曲がった細い道。。。彼女は毎日、木蓮の香りが漂い、後ろに中庭のある黒っぽい四角い家の横を通った。2階のカーテンのある高い窓の向こうから、いつも女の人が外を見ていた。」シンクレア・ルイス(注17)

書記の質問:どうやって訪れますか?徒歩で、自転車で、あるいは車でですか?その場所ではどうやって動き回りますか?小道や歩道はどんな様子ですか?上ったり下りたりはしますか?

(第1段落)すべての要素の中で、動きは周囲に最も強い定義を与え、建築に最大の関わりを持っています。動きとは、例えば入り口や階段から入ること、そして軒先の下やドアを通って動く連続性を指します。空間の中での私たちの動きは、周りの環境からの刺激に対応する小さな判断の連続に基づき、その時々の勘と気分によって決まります。

人々が部屋や空間をどのように動くか観察してみてください。部屋の真ん中を堂々と横切りますか?それとも端っこのほうを密やかに渡っていくでしょうか。動きに関する気分は、子供たちにおいて顕著です。楽しそうに歩道のヒビをスキップして飛び越える様子、そして叱られたあとに足を引きずるようにして歩く様子などです。

子供たちは踏み台(何と大きいことでしょう!)に上ってみた感覚に感動します。道を歩くときは、商店の入り口の引っ込んだところに一軒一軒必ず入ってみます。板塀の表面や地下鉄の排気用の鉄格子に棒を当てながら歩いたり、低い塀の上や噴水の縁をバランスを取りながら歩いたりします。屋外の階段の手すりの端っこの柱の上にある真鍮の滑らかな球体は、それを触ってみた無数の子供たちの(そして大人たちの)手で光ります。

子供たちは、床のレンガの模様、歩道を歩くときに駐車中の車の窓に映る景色など、自分たちに近いものに最もよく気づきます。

(第2段落)人々が都市ではどう動くかに注目してください。歩いていますか?自転車に乗っていますか?タクシーに乗っていますか?バスに乗っていますか?スケートボードやカヌーに乗っていますか?人々は異なる状況の下で異なるふうに動きます。用事と用事の間にぶらぶらする人々は、先を急ぐ通勤時の人々のそれとは異なる環境を持ちます。

他のタイプの動きについて考えてみましょう。例えば、私たちの目は異なる状況で異なるように動きます。細かい彫刻が施された壁の上ではじっと見つめますが、つるつるしたタイルの滑らかな繰り返しの上ではすぐに目が移ります。

私たちの目は、風が木の葉を動かす様子、動く水の上で輝く日の光、炎が揺れ踊る様子、遠くの高速道路を行く車に光が反射して動く様子に惹かれます。

(第3段落)建築的な空間の中には、目が周囲のリズムを辿るのを促す動的な性質を持つものがあります。エジプトのスフィンクスの道は、砂漠、巨大な壁と寺院の入り口、中にある薄暗い、巨大な柱が何本も聳え立つところ、その向こうにある礼拝堂の赤い輝きへと順に目を導きます。

ゴシック式の中庭の先には圧倒するような聖堂があり、それに続く入り口のアーチ、そして中に入ると天井の高い本堂が祭壇の上のステンドグラスの薔薇窓へと視線を導きます。ルネサンスの柱廊式玄関は、大きな階段がシャンデリアに照らされた舞踏室に続くロビーへと目を導きます。

2-3 時間
「都市はそれを作るのに100万人が力を合わせる生きた存在だ。
都市を作る最初の一歩は個人だ。
人はその隣人を、彼らの力を知らねばならない。
彼らのうちの誰が、一杯のコーヒーを共に味わうために時間を割いてくれるのか。
あるいは、子供の涙のために。
そしてそのような大きな、あるいは小さな繋がりから、近所が生まれる。
そしてそんな近所から都市が生まれる。」ハッサン・ファシー
(注18) 

書記の質問:いつこの場所を使いますか?どれくらい頻繁に使いますか?どれくらい長くいますか?カジュアルな時間ですか?決められた時間ですか?季節によって違いますか?

(第1段落)都市の空間は、その使われ方によって独自の時間を作ります。朝早く通勤する人々、買い物客で混みあう前のしばしの静けさ、サンドイッチを食べるために陽の当たる場所を探す昼食時の人々。一部の場所は夕方になると閑散として、他の場所では劇場に向かう人々の群れが見られます。

ある場所で過ごす時間の長さは、そこで必要とされるアメニティーを決定します。一時間半以上であれば、トイレが必要です。3時間以上であれば、食べるものが必要です。このように、私たちの体の内部のサイクルが私たちの建築環境で必要なものに影響します。

(第2段落)ダウンタウンのアパートに住んで、毎日店の前を通るなら、毎日買い物することができるので、家での収納スペースは少なくて済みます。郊外に住む人々が毎週一度スーパーで買い物をするなら、食糧を入れておく場所がもっとたくさん必要です。

田舎の農家にある季節の貯蔵庫は巨大で、建築物の大きな部分を占めます。このように、食糧生産と消費の一時的なサイクルは、間近な環境に影響を与えます。季節による変動も考慮する必要があります。特定の環境を使用する時期や、季節による天候の変異のために使われない時期などです(スケートリンク、スキーロッジ、屋外プール、屋外カフェなど)。

(第3段落)効率的な仕事のために必要なものは、レジャーのときのデザインに必要なものとは異なります。ある場所(劇場、教室、オフィスなど)は人々が皆、決められた時間に到着したり帰ったりするスケジュールに応じてデザインされる必要があり、別の場所は人々が中心的な活動を妨害することなくランダムに来たり帰ったりするオープンな場所としてデザインされます(ショッピングセンター、レストランなど)。

また、暮らしの中で特別な時、頻繁ではないが宗教、社会、政治、あるいは経済面で共同体の継続にとって重要な場面があります。祭り、歩行者天国、パレード、青空市場、大集会などの特別なイベントは、カレンダーに特別な位置を占め、ある特定の場所と関連づけられます。また、特別な状況で静寂の時が持たれる場合もあります。

「影が長くなり、日の光が雲から雲へとだんだんかすれていき、平原の空にかすかな、そしてもっとかすかな雲のギザギザの線を映し出す。ぽつんと建った農家の窓が一瞬明るくなる。平原はもっと柔らかな、もっと黄色っぽい光に照らされ、沈みゆく太陽は輝く球になり、やがて平原の縁の黄金の光になる。」W.O.ミッチェル(注19) 

2-4 気分と雰囲気
「地球にこれほど美しいものは他にない。
見る者の魂は言葉を失う。
感動の美しさ。
この街は今、衣装のように着飾る。
朝の美しさ、静かな砂浜、
船、塔、ドーム、劇場、そして寺院が
平原に、空に浮かび上がる。
煙のない空に光と輝きが溢れる。
太陽はかつてこれほど美しくまっすぐに上がったことはない。
その初めの美しさの中に、谷と岩と、あるいは丘。
私はこれほど深い落ち着きをかつて見たことも感じたこともない。
川は自らの甘い意志で流れる。
親愛なる神よ、家々は眠っているように見える。
そしてその偉大な心臓は、まだ静かに横たわっている!」ウィリアム・ワーズワース
(注20) 

書記の質問:その場所の感じはどのようなものですか?活動的、静か、気楽、エキサイティング、あるいは陰鬱ですか?

(第1段落)この質問の答えは建築スタイルと建材の選択を考慮するのに影響します。ある場所は特定の雰囲気を醸し出すかもしれず、あるいは人は経験したことのある感覚と特定の場所を関連づけるかもしれません。例えば、愛する者がそこに葬られていなくても、墓地には後を引くような憂鬱さがあります。

子供の頃に遊んだ川の土手は、たとえ今では水が汚染されて土手が雑草に覆われていたとしても永遠に温かい気持ちを呼び覚ますでしょう。

(第2段落)一日中スキーをしたあとで行くスキーロッジを想像してみると、火の横で温まってその日の冒険を語り合う、寛いで和やかな雰囲気を思い出すでしょう。建築要素を巧みに操作することで、デザイナーはその場に望ましい雰囲気を作り出します。スキーロッジでは、寛いだ知覚を強めるために、水平の要素を強調するかもしれません。

照明は落ち着いた穏やかな効果を出すために注意深くコントロールされます。色はスペクトルの暖色に限られます。茶、赤、オレンジなどです。建材は、寛いで気楽な雰囲気を増すために自然な環境に呼応するもの(木や石など)が選ばれるでしょう。

(第3段落)別の状況を考えてみると、街の中心地にある銀行のデザインでは、全く異なる効果を出すために異なる建築要素が使われるでしょう。この場合は威厳を出すために垂直の要素が強調されます。照明は、銀行の事務を行い、保安性を高めるために非常に明るく機能的になされます。色は寒色で金属的なものになるでしょう。

威厳があって緊張感があるビジネスライクな雰囲気を求めることは、床やカウンターに磨きぬかれた建材を使うことに繋がるかもしれません。

2-5 音
「今日は、すべての人工の音は、テラスのある庭園の横を流れる、溢れる川の水音にかき消されました。それは変わることのない継続的な、低い唸るような音でしたが、すべての自然の音のように、耳障りになるでもなく、会話の邪魔にもなりませんでした。それは心地よいものでした。時を超えた力、純粋で汚されることがありません。醜さと暴力の世界の中で、人間が無頓着に地球を汚すのに抵抗していました。」ルース・レンデル(注21) 

書記の質問:何が聞こえますか?自然な音ですか?人工的な音ですか?音楽、会話、子供の声はありますか?高い音、低い音、静かな音、または騒々しい音ですか?

(第1段落)これらの問いへの答えは、場所の形、建造物のタイプ、異なる活動の間の関わりに影響します。音は環境の中で最も気づかれない要素の一つですが、それは人の環境との関わりに非常に多くの重要な鍵を提供します。

コミュニケーションにおいて他者の声を聞くことは人間同士の繋がりであり、そのため、会話や音楽を聴きたいという欲求の表明は、特定の観測しうるデシベルが得られる必要がある、あるいは特定の音響性が必要である、というデザイン用語に翻訳されます。

聴覚には3つの基本的な音域があります。中間の波長は背景の音として知覚されます。波、風、火の音、ラジオの空電、エアコンが唸る音などです。高周波音は、女性や子供の声の中に存在します。そして低周波音は、男性の声の低くて深い響きの中にあります。

建築環境によって影響されるのは、これらの3つの周波のバランスです。行進する音楽隊には音を反射する建物があったほうがいいし、バロックのホルンの音楽には公園が適していて、水の上だと音がよく渡ります。

(第2段落)内部のスペースは音の性質にもっと影響します。安普請の小さなカフェには、普通、つるつるして掃除のしやすい表面が使われます(タイルの壁、人工素材の表面、ビニールの床など)。そして軽い木または金属の壁があります。音を反射しやすい表面は、皿が触れ合う音やレジの音などの高周波音をカフェに跳ね返し、ぺらぺらの壁は低周波の音を外に漏れさせます。その結果の音は、甲高くてバランスが崩れています。

反対に、高層ビルの下の階にある値段の高いレストランでは、厚いカーペットとカーテン類が高周波の音を吸収し、分厚いコンクリートの壁は静かな会話の低周波の音を跳ね返します。ここの雰囲気は、落ち着いてバランスの取れた音です。

同様に、内部の空間の形は音響効果に影響します。ショッピングモール、劇場、そして教会で咳をしたときの音を比べればすぐに分かります。このように、音響の好みに関する描写は、資材の種類や環境のアレンジを示します。
# by ammolitering7 | 2013-06-21 08:06 | 「コ・デザインの手法」